「着手」の精度に磨き 体操跳馬・安里圭亮<憧憬の舞台へ>


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全日本選手権男子跳馬予選 力強い助走と踏み切りから着手に入る安里圭亮=2020年12月11日、群馬県の高崎アリーナ

 開発中の大技「屈身リ・セグァン」の完成度を磨き、種目別跳馬で東京五輪出場を狙う安里圭亮(27)=興南高―福岡大出、三重・相好体操クラブ。これまで高さと回転力に直結する下半身の強化に重点を置いてきたが、今は次の段階にある。ロイター板を蹴って宙に飛び出す前の最後の動作となる、台に両手を付く「着手」の精度向上だ。勝負は代表選考に懸かる大会が続く春。「ここ(着手)が次に進むためのポイントだと感じている。しっかり土台をつくりたい」と奮い立つ。 (長嶺真輝)

 昨春はコロナ禍で大会中止が相次いだが、9月の全日本シニア選手権種目別で優勝。調子が上がらない時期もあったが、12月の全日本選手権種目別も2位と好位置に付けた。いずれもDスコア(演技価値点)6.0という高難度のリ・セグァンを披露。短いシーズンではあったが、全日本では「高さと回転はシニアの時より良くなってきた」と向上を実感していた。

 一方で、五輪代表のわずかな枠を勝ち取るためには、Dスコア6.4という世界最高難度の大技「屈身リ・セグァン」を磨く必要性を感じている。「完成度が上がることで周りの選手より有利になるし、そこが自分の武器になる」。大学時代から持ち技とするリ・セグァンにも余裕が生まれるため「やってて損は無い」と鍛錬を積む。

 国際大会でも優勝経験のある安里の最大の武器は強じんな下半身だ。そこから生み出される力強い助走と踏み切りをより効率良く高さと回転に昇華させるため、今は台に両手を付く着手を磨く。1日3時間、週5日の練習で反復し、理想のタイミングや強さを探っている。

 わずか数秒の試技の中で、着手は一瞬の出来事だが「イメージ通りに台に触れることは難しい」と奥は深い。自らの繊細な感覚が頼りになるため、思い描く着手を言語化することは困難だが「いいつき手が入ると、自分の体に返ってくる反動の感覚がすごい」と言う。「逆にうまくいってない時は跳馬に力が伝わってないから、反動が返ってこない。地味なことだけど、ここが鍵になる」と五輪出場に向けた重要なポイントに位置付ける。

 東京五輪の開催が先行き不透明な中で「不安は少なからずある」というのが本音だ。それでも全日本種目別選手権のトライアウトやNHK杯など代表選考に関わる大会は春に迫る。「オリンピックがあるものだと思って準備しないと、気持ちや体が付いてこない。深く考えず、今できることをやっていくしかない」。心をたき付け、跳馬と向き合う。