遺族「あと50年早ければ」 戦没者遺骨のDNA鑑定、地域限定せずに実施へ


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 厚生労働省は5日、沖縄などの地域に限定されていた戦没者遺骨のDNA鑑定を地域を限定せずに実施すると発表した。フィリピンや南洋群島などで犠牲になった県出身者の遺族らは、早期鑑定を求める一方で、「あと50年早ければ」と対応の遅れを指摘する。多くの遺族が、鑑定に必要な遺骨が見つかっていない現状もある。

平和の礎(資料写真)

 県ダバオ会理事の安里勝さん(85)=北中城村=は、太平洋戦争中にフィリピンで父や兄弟2人を亡くした。当時1歳だった弟は山に埋葬され、父は山奥で行方不明になったが、遺骨は見つかっていない。「DNA鑑定をするといっても遺骨がなければ鑑定できない。若ければ自分が収集したかったが」と声を落とし、「遺族も高齢化が進んでいる。国には現地での遺骨収集にも取り組んでほしい」と話した。

 多くの人が亡くなったミンダナオ島タモガン避難地には現地で収集されたフィリピン人や日本人の遺骨が納められていることから、安里さんは「まずは納骨堂に集められた骨を急いで鑑定してほしい」と要望した。

 南洋群島帰還者会の上運天賢盛会長(89)は、南洋群島からの帰還者のほとんどは、親族が亡くなった場所が不明だと指摘。「DNA鑑定ができるようになったとしても、われわれにとって効果はないと思う」と話した。今回の発表に「あと50年早く示してほしかった。体に自由が利くのであれば、探しに行くこともできた。いまさら感は拭えない」と疑問視した。

 宜野湾市に住む横田チヨ子さん(93)は、父親と兄をサイパンで亡くした。地域を限定せずにDNA鑑定が実施されることに「大変いいことだと思う。一人でも多くの遺族の元に遺骨が戻ってほしい」と願った。だが、自身の兄の遺骨は現在もみつかっていない。「何度も現地に足を運んでいるが、探し出せていない。コロナが収束した後にもう一度足を運んでみようと思う」と静かに語った。

 沖縄と並行して海外の戦没者遺骨のDNA鑑定をするよう厚労省に求めてきた沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんは「海外での戦没者に対しても、ようやく国が責任の一端を取ることになる」と述べ、国の対応を歓迎した。