米軍専用施設面積50%目標 差別是正は沖縄人自らで<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 16日に開会した県議会2月定例会で、玉城デニー知事が県政運営方針を表明した。

 〈県政の最重要課題である米軍基地問題について、来年に沖縄の日本復帰50年を迎えることを見据え、基地負担の軽減に向け「当面は在日米軍専用施設面積の50%以下を目指す」として、その実現を日米両政府に求めていくと強調した。玉城県政が基地負担の軽減に向け、数値目標を明示するのは初めて。/玉城知事は、嘉手納より南の返還・統合計画による返還が全て実施されたとしても「沖縄の米軍基地専用施設面積は全国の69%程度にとどまり、応分の負担には依然としてほど遠い状況にある」と指摘した。辺野古新基地建設問題については「対話によって解決策を求めていく。政府に工事を直ちに中止した上で、県との対話に応じるよう求める」と従来の姿勢を示した〉(17日、本紙電子版)。

 基地負担の軽減として、玉城知事が「当面は在日米軍専用施設面積の50%以下を目指す」という数値目標を示したことについて、積算根拠が明確でない、唐突だ、数合わせのゲームに巻き込まれることになるなど、さまざまな批判があるが、筆者は政治的に大きな意味があったと考える。なぜなら、久しぶりに全国紙に在沖米軍専用施設の過重負担に対して、知事から異議申し立てがなされたと報道されたからだ。

 日本の陸地面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の約70%が集中しているというのは不平等だ。不平等な状況が是正されないのは、日本の中央政府だけでなく日本人の大多数が、在日米軍基地を沖縄に過重負担させることを容認しているからだ。そのため県民が受けている苦痛を、大多数の日本人は空気のように当たり前と受け止めている。こういう状況が日本による沖縄に対する構造化された差別だ。

 この現実について、「最低限、負担を半分にしろ。それさえ受け入れられないということは、われわれを対等の国民として扱っていないことと受け止める」という宣言を玉城知事は行ったのだ。ただし、玉城知事は優しい人なので、激しい物言いはしない。

 中央政府も大多数の日本人も玉城知事の叫びを無視している。〈加藤勝信官房長官は17日の会見で、玉城デニー知事が16日の県議会で表明した「在日米軍専用施設面積の50%以下を目指す」とした数値目標への見解を問われ、「知事の発言一つ一つについてはコメントを差し控える」とした〉(18日、本紙電子版)。

 要するに、加藤官房長官は、玉城知事の叫びを無視したのだ。この冷淡さに事柄の本質があると思う。この冷淡さは、加藤氏だけでなく、大多数の日本人に共通している。

 この現実から考えなくてはならないのは、沖縄人の権利を主張し、擁護することは沖縄人にしかできないということだ。この沖縄人には、県民だけでなく、日本や海外に在住する沖縄人も含まれる。筆者のように沖縄に住んだことはないが、母親のルーツが沖縄で、自らも沖縄人であるという自己意識を持つ人々は、日本全体で500万人くらいいるのではないかと筆者は推定している。ただしこの自己意識には濃淡がある。

 沖縄県知事には、他の都道府県知事とは異なる性格がある。県民の代表であるのみならず、日本と海外に在住する全ての沖縄人を人格的に象徴するという性格だ。沖縄が置かれている差別的状況を是正しなくてはならないという発信を、今回のような玉城流の穏やかな言葉でよいから、積極的に発信し続けてほしい。それによって県外に住む沖縄人のアイデンティティーが強化される。

(作家・元外務省主任分析官)