那覇軍港移設 円滑な進展、見通せず 「3者合意」も難題多く<ニュース透視鏡>


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(上から)米軍那覇港湾施設、浦添市移設に向けて代替施設の配置に合意した県と両市トップ、浦添市西海岸、3選を果たした松本哲治市長陣営のコラージュ

 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設が争点の一つとなった7日投開票の浦添市長選で、軍港受け入れを容認した松本哲治市長が再選を果たしたが、移設を巡る議論の行方は不透明なままだ。県や那覇市との事実上の「3者合意」を起点に、移設を前提とした議論を続けるが、松本市長は容認は苦渋の決断と強調し、今後も環境対策などで配慮を求めていく姿勢を示している。革新陣営も市長選で敗北したものの、移設反対の民意には一定の感触を得ている。事務方間での調整も難航しており、円滑な進展は見込めない。

 県政与党内でも移設反対が多くを占める中、玉城デニー知事は容認しており、軍港問題は県政の「アキレス腱(けん)」だ。だが、玉城知事は、翁長前県政の路線を引き継ぐ従来の説明を繰り返すばかりで、こと軍港問題に関しては「デニーカラー」が影をひそめている。

市長選で見えたもの

 軍港移設を容認する松本氏が再選したことについて政府関係者は「知事にとっても悪い結果ではないのではないか」と皮肉を込めた。市長選を通じて「『オール沖縄』内の意見の相違が表面化した。ごたごたが続くだけでもいい」と話し、軍港問題を通じた「オール沖縄」のほころびを期待する。

 一方、琉球新報の出口調査の結果を見ると、松本氏に投票した有権者が重視した政策として最多だったのは経済活性化の22・5%だった。新型コロナウイルス対策19・3%、子育て・教育16・0%と続く。軍港移設問題を選んだ割合は11・8%にとどまる。

 松本氏も投開票の翌日、本紙などのインタビューに「一定程度、信任を得た」と語りながらも「(サンエー浦添西海岸)パルコシティの真っ正面に軍港が造られることを心理的には納得できない市民は、たくさんいる」と話している。

 玉城県政を支える与党幹部の一人は「これで降参して終わる気はない」と語った。松本氏が全面賛成を掲げた訳でなく、あくまで「苦渋の決断」と表現していることに「沖縄が背負わされていることを表している」と捉え、移設を止める方策を模索する考えを示した。

議論停滞

 防衛省が軍港代替施設の計画を示す前段階として、地元側がリゾート開発や物流を担う民間港部分の埋め立て面積や形状をまとめることになっている。県と那覇、浦添の両市で構成され那覇港の運営を担う「那覇港管理組合」は、20年度内に民間部分の案を作ることを目指して作業を進めているが、トップ同士の「合意」と裏腹にその議論は滞っている。

 浦添市がリゾート開発などを目的とする交流区域、那覇港管理組合がコンテナなどを集積する物流区域について、それぞれ素案作りを担当している。互いに素案の根拠が曖昧(あいまい)だと指摘し合い、年度内に話がまとまるかは不透明だ。

 民間部分の案ができた後に防衛省が軍港の配置・形状の案を示す見通し。米軍との調整も経て計画が定まった後、環境影響調査や設計、埋め立てに必要な手続きがある。13年に日米両政府が合意した計画では、米軍への提供までに約15年半を要すると想定している。今後、円滑に進んだとしても、単純計算で移設・軍港返還は36年度以降になる。

機能強化か

 既存施設の返還に県内移設を条件としているという点では、普天間飛行場の移設問題と似通う。県は、新たな機能が加わる名護市辺野古の新基地建設と、機能を変えない那覇軍港の代替施設では意味合いが異なるとの認識だ。だが、軍港の代替施設の形状や機能は今後決まるため、辺野古新基地と同じように機能強化になる可能性がある。

 12日の記者会見で、移設で解決しなければならない理由を問われた玉城知事は「従来の考え方を私も踏襲している」と述べ、根拠を明示しなかった。

(明真南斗、西銘研志郎、知念征尚)