<美と宝の島を愛し>税金の無駄遣いと差別是正 森氏発言から見えるもの


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 米国ファイザー社のワクチンは、日本では注射器の問題があり、1瓶につき6回分が5回に減ると、厚労大臣が発言した。準備していた注射器では無駄が出るらしい。エッ!である。わずかな量かもしれないが、1円を笑う者は1円に泣く、という諺(ことわざ)もある。

 厚労省の詰めの甘さと税金無駄遣いは、これが初めてではない。抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザなどは2016年から廃棄され続け、約3千万人分が廃棄処分され莫大(ばくだい)な税金がゴミ箱入りした。運送、廃棄の費用もバカにならない。今回の注射器問題は、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長をはじめ専門家、厚労省のアドバイザリーボードメンバーの誰も注意喚起する人はいなかったのか。生命にかかわることだから、正確で緻密な情報収集と確認作業が製薬会社との交渉時には大事だ。混乱はやむを得ないと大方が黙過している。韓国が出来たことが日本ではなぜ出来ないのか。

 日本の敗戦の一因も、情報収集と多角的分析が不得意だったからだ。あの敗戦の後遺症として、米国相手だと臆(おく)してものが言えない敗戦体質を統治組織は引きずっているようにも見える。官庁の前例踏襲主義という前近代性がそれに追い打ちをかけ、これでは日本は世界から取り残されるだろう。敗戦体質を引きずる前例踏襲主義でどれだけ米国の良いカモになってきたことか。

 少し前の話だが、文春砲がドカンと、和泉洋人首相補佐官と厚労省の大坪寛子官房審議官のコネクティングルーム不倫出張を報道したが、身分不相応の贅沢(ぜいたく)旅費を税金から出したにもかかわらず、震度1程度の揺れで治まってしまった。忘れっぽい日本人は忘れているかもしれないが、厚労省の外局だった社会保険庁が2009年に不祥事続発で廃止された。今に至る年金支給の枯渇は、高齢者がやたらに増えたからと責任を高齢者に転嫁しているが、大本(おおもと)は伏魔殿とまで言われた社会保険庁の破滅的な年金資金の無駄遣いにあった。

 厚労省のホームページを開いてまたまたビックリ。省のシンボルマークが赤で女性、青で男性を表現し、女は男に比べ小さくデザインされている。公衆トイレの標識でも男女の大きさは同じ。赤と青に色分けしても色弱の人には見分けにくく、諸外国では男女で色分けしていないと思う。小柄な男性も大柄な女性もいるのだから、女は小さくかわいく、は今時ナシだろう。官僚はアタマが良い、これはすでに都市伝説なのだ。

 森喜朗氏の問題発言が国家的プロジェクトに水を差した。同氏は2003年に、石原慎太郎氏の有名なババァ発言と似た趣旨の「子どもを一人も作らない女性が(略)年取って税金で面倒見なさいというのは、本当はおかしい」と言っている。あの時は大方が笑ってスルーした。今回は世界の目線が厳しく、世界に恥ずかしいという恥の文化が働いた改革に見える。外圧を受けて繕った改革では、まだまだ道半ばだ。

 高速で走る日本社会から下車して遠望するとき、とりわけ若さを過ぎた女性は愛においてこの国で幸せを感じているか、と疑念が浮かぶ。石原、森的マインドの男性は目立たないが薄く広がっている。男性には齢(よわい)を重ねて貫禄が出た、人生の年輪を重ねた、などの褒め言葉があるが、歳をとった女性は思いっきりバアチャン然とするか、それがイヤならばアンチエイジングに金を使うかだ。その女性への視線も、数ある差別の中の一つだ。差別とは侮蔑であり、愛は無い。

 沖縄大好きと観光に来る方々が、それを機に米軍基地が占める比重と県民の危険を肌身に感じてアクションを起こしてくれたら、「大好き」は「愛」になり、力になる。

(本紙客員コラムニスト 菅原文子、辺野古基金共同代表、俳優の故菅原文太さんの妻)