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女性レーサー・翁長美希「夢を目指して、行ける所まで」 F4にシリーズ初参戦 <ブレークスルー>


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JAF―F4へのシリーズ初参戦を控える翁長実希=11日、読谷村のククル読谷サーキット(喜瀬守昭撮影)

 女性ドライバーのみで競うカーレース4輪シリーズ「KYOJO CUP」(競争女子)で2季連続の総合準優勝を果たした翁長実希(23)=浦添商高―沖縄国際大4年。今月末からは、車両がよりレースに特化したフォーミュラカーのシリーズ「JAF―F4」に初参戦する。昨季は初歩的なミスによる失格を経験し、自信を失いかけたこともあったが「レースに冷静に向き合えるようになった」と精神面で強さを増した。昨季FIA―F4で県勢初の年間王者に輝いた幼なじみの平良響(20)=安慶田中―コザ高出=の存在も大きな刺激になっている。

■失格で支えを実感

 総合優勝を目標に挑んだ今季の競争女子。全4戦の開幕戦で優勝し、第2戦も2位。格上のカテゴリーで実績のある三浦愛が初参戦し、例年よりレベルが上がったにもかかわらず、順調な出足だった。しかし第3戦に“落とし穴”が待っていた。

 スタートの合図となるシグナルの消灯前にわずかに前方に動いてしまい、フライングと判定された。周回中、ペナルティーを示す「黒白旗」が自身のゼッケンナンバーと併せ、コースに出される。規定では旗が出されてから3周以内にピットレーンを通って一時的に減速することが義務付けられているが、フラッグに気付かない。そのまま走行を続け、失格となった。

 4歳でカートに乗り始めた翁長。「黒白旗が出れば忠告、黒旗が出れば失格。レースに出始めた小学生の頃から知ってる当たり前のこと。ドライビングに集中し過ぎて気付かなかった」。レースのネット中継動画には「ドライバー失格」など容赦ないコメントも書き込まれ、「自分に対して不信感が生まれてしまった」と言うほど自信を喪失。その中で、救ってくれたのはライバルやチームの仲間たちだった。

 「ずぶとい人が残っていく。これからだよ」。レース直後にそう声をかけてくれたのは、翁長が「憧れのドライバー」と言う三浦だった。経験豊富な先輩の言葉には重みがあった。チームのメンバーも「この経験をした翁長はこれから強くなる」と背中を押してくれた。「どう立ち直って、どう挽回するかが大事」と顔を上げた。総合優勝は難しくなったが、最終第4戦は「応援されてる実感があって、優勝以外ないと思っていた」と接戦を制し、再び表彰台の頂点に立った。

■切磋琢磨

昨季のスーパー耐久第3戦に同じチームで参戦した(右から)翁長実希、平良響、野中誠太=2020年11月1日、岡山国際サーキット(提供)

 賞金やチームとの契約金で生計を立てるプロを目指す。「プロへステップアップしていくにはフォーミュラの経験は重要」と、昨秋にJAFーF4に2度スポット参戦した。昨季、平良響が優勝したFIA―F4はマシンが全て同じ規格なのに対し、日本独自のカテゴリーであるJAF―F4は規定内でマシンの独自改良が許される。それ故、ドライバーにとってマシンのセッティングや車の動きを学ぶ絶好の場とされる。

 平均速度は競争女子で使用したVITAレースカーに比べ30~40キロほど速く、ハンドルも重い。腹筋や腕の筋力を鍛え、今月末に迫る今季開幕戦に備える。一方、フォーミュラカーはドライバーやタイヤがむき出しで危険度は格段に増す。「自分の容量を超えると大きな危険につながる。まずは少しでもマシンを操れるように経験を積みたい」と着実な成長を思い描く。

 翁長の父・達也さんが開設したククル読谷サーキットに幼少期から通っていた平良の存在も向上心をくすぐる。FIA―F4の総合王者に輝いた幼なじみを「以前は思い切りで走ってしまう部分があったけど、修正してチャンピオンになった。すごいこと」と称賛する。

 平良も翁長の走りを「シフトチェンジの操作がミスなく丁寧。自分も車載動画を見て参考にしている。F4でも十分上に行けると思う」と高く評価する。今季は複数人のドライバーが交互にハンドルを握るスーパー耐久シリーズ(S耐)に同じチームで参戦を予定しており、高め合う。

 フォーミュラカーの世界で女性は数少ない存在だが、翁長は「特に気にしていない」とどこ吹く風。国内最高峰のスーパーGTで走ることを目標に置く。「夢を目指して、行ける所まで行きたい」とにこやかに、力強く語った。

(長嶺真輝)