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総務官僚接待問題 官業癒着に検察も関心<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 放送関連会社「東北新社」による総務省幹部らへの接待問題が、菅義偉政権の権力基盤を揺るがす深刻な事態に発展する可能性がある。

 22日の衆議院予算委員会の集中審議で、菅首相は「私の長男が関係して、結果として公務員が倫理法に違反する行為をすることになった。このことについては心からおわびを申し上げ、大変申し訳なく思います」と謝罪した。菅氏の長男は、公職に就いているわけではない。しかし菅氏が総務大臣を務めていたときに長男を秘書官に就けていた経緯があり、そこから長男と総務省幹部らの人脈ができたと見るのが妥当だ。そうなると菅首相も道義的責任を免れることができなくなる。

 〈菅義偉首相の長男・正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」による接待問題で、総務省は24日、正剛氏らとの会食は利害関係者からの違法接待と認め、事務次官級の谷脇康彦総務審議官(60)ら9人を減給や戒告の懲戒処分とするなど計11人の処分を発表した。菅首相は総務審議官当時に正剛氏らから7万円超の接待を受けた山田真貴子内閣広報官(60)を厳重注意した。山田氏は給与10分の2の3カ月分に相当する額を一括で自主返納する〉(24日、本紙電子版)。

 山田氏は、総務省を退職した後、菅氏の政治任命によって特別職の国家公務員である内閣広報官に任命された。利害関係のある業者から平気で接待を受ける体質のある人物を内閣広報官に任命したことについて、菅首相も政治責任を問われる。

 政府の処分に対して、世論の受け止めは厳しい。〈首相の長男が絡む「官業癒着」にもかかわらず、虚偽答弁によって国会を侮辱した。その揚げ句、身内に甘い処分では話にならない〉(25日、本紙社説)というのが、世論の標準的な反応であろう。接待問題がここまで拡大すると、贈収賄があったのではないかという視点から東京地方検察庁特別捜査部が本件に関心を持つ。

 検察の解釈では、公務員が金銭や贈答品を受け取ったときだけでなく、繰り返し接待を受けていた場合も賄賂にあたる。検察官経験者の話によると、接待総額が50万円を超えると立件されるという。

 いずれにせよ本件に関しては、市民団体から東京地検特捜部に告発状が提出されるだろう。これだけ世間を騒がせている問題なので、検察としても告発状を受理しないわけにはいかない。仮に検察が不起訴としても、本件は検察審査会に持ち込まれることになる。今後、東京地検特捜部が「東北新社」を家宅捜索するような事態になれば、さまざまな書類が押収される。証拠物を読み込んだ上で、検察は総務省に対しても捜査の手を伸ばすことになろう。

 現在、この状況に神経を尖(とが)らせてるのは民放各社と思う。民放各社が総務省幹部と会食を行っていないとは考えにくい。この件が表に出ると、総務省の接待体質と電波行政の関係に国民の関心が集まる。

 いずれにせよ、菅政権と検察の間で、今後激しい綱引きが行われることになろう。もっともこの綱引きは水面下で行われるので、国民にはなかなか見えてこない。

(作家・元外務省主任分析官)