コロナ下、事業者支援の在り方は? 企業の再生専門家3氏に聞く


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 琉球新報は26日までに、事業再生や事業者支援の専門家として全国的に知られる、みちのく債権回収(青森県)の坂本直樹社長、北門信用金庫(北海道)の伊藤貢作企業支援室長、島根県信用保証協会の小野拳営業部長の3氏にインタビューした。坂本氏はサービサー(債権回収会社)として、地域企業の事業再構築を手掛けている。伊藤氏はいくつもの企業で事業再生を成功させた後に、金融機関で事業者支援を続けている。小野氏は全国の信用保証協会の底上げに向けて活動し、人材育成の手法に評価が高い。3氏は沖縄総合事務局財務部が19日に開いた、企業支援に関するセミナーの講師として来県。インタビューでは、それぞれの立場からコロナ下での事業者支援の在り方について考えを述べ、金融機関が事業者の本質を見極めるためにも、企業の現場に積極的に足を運ぶ必要性を強調した。(聞き手・池田哲平)


共通の価値、事業者と見極め必要 坂本直樹氏(みちのく債権回収(青森県))

坂本直樹氏

 金融検査マニュアルは債務者区分によって、引当金の割合が規定されていた。金融機関は区分ごとの事業者を一緒くたに見てしまい、本来ならば事業者ごとに違う価値の見極めを、おろそかにしてしまうことにもつながった。金融機関の貸出金利は1%前後で、事業者を頑張って支援してもインセンティブを高めにくい面もある。

 その点では、債権回収会社(サービサー)は債権者として個々の事業者を見ている。事業者の価値を上げれば、サービサーとしてのもうけとなるため、事業者と利害が一致している。金融機関が事業者との共通価値を見いだす一つのツールとなり得る。

 事業再生に当たって金融機関は、なんとなく「公的機関を使わないといけないのではないか」「経営判断に不安があるから、誰かに頼らないといけない」という思考に陥りがちだ。しかし、最終的には「自己判断だ」と捉え直すことで、できることは格段に増える。

 サービス業が多い沖縄では、金融機関は単に「倒産がどこまで増えるのか」ということを心配するのではなく、冷静に足元を分析し、データを集め、新たな体制づくりをサポートしていかなければならない。

 もうけるサービスは、ちょっとした気遣いの積み重ねであり、いかに安い原材料で顧客に満足感を与えられるのかという点にかかってくる。事業者の努力とともに、金融機関も事業者の価値を見極め、一緒に知恵を絞ることが求められる。


アベノミクスには戻れない 伊藤貢作氏(北門信用金庫(北海道))

伊藤貢作氏

 昨年3月にコロナの感染者が出て、実質無利子・無担保融資制度が始まった。問答無用で貸し出すという金融支援の在り方が通っていたが、コロナのあおりを受けた事業者と、そうではない事業者がない交ぜになっていた。1年近くがたち、局面は変わってくる。

 北海道も沖縄も似たような状況があり、アベノミクスによる政策で、中国人をはじめとした外国人観光客が大勢入ってきた。外国人観光客を目当てに、放漫経営の事業者も多くいた。こうした事業者も「コロナで苦しんでいる」と捉えるのは、いかがなものだろうか。

 感染症の収束後は「コロナ前に戻れない」のではなく、「アベノミクスに戻れない」と考えるべきだ。国は感染症による事業者への資金繰り支援で、約30兆円も貸し出した。これまでのような政策を打ち、外国人観光客が大勢来るような状況には戻れないだろう。

 コロナ禍で、事業者の課題が一気に顕在化した一方、地域のエコシステムの集約を早められるという側面もある。M&A(企業の合併・買収)や従業員の引き継ぎなど、合理化や再編も大事になってくる。金融機関は、地域にとって必要なインフラ機能を持った事業者、堅実なビジネスモデルを続けてきたが困っている事業者を見極め、優先的に支援をする必要がある。

 いかに事業者の元へ足を運び、事業の本質を見極め、支援のトリアージ(支援の優先順位)の精度を上げられるかが、地域金融機関に問われている。


徹底的に現場へ、意識共有を 小野拳氏(島根県信用保証協会)

小野拳氏

 事業者支援に向けて、信用保証機関の職員が育つためには、徹底的に現場に行くことしかない。経営者や経理の方と話し合い、商売全体を学び、一緒になって売り上げを立てることが大切だ。不採算部分の損切りなど、ポイントで経営者に決断していただくからには、自らも汗をかかなければならない。

 コロナ前と後で変わったのは、危機に直面する事業者が圧倒的に多くなったことだ。まずはコロナ対応融資などでしのいでもらったが、コロナ後は7割しか売り上げが戻らないかもしれない。その中できちんと利益が出せる体質になるよう、今のうちから準備をしておくことが一番大切だ。

 一つの機関だけでは手の数が足りないので、金融機関と保証協会、支援機関などで連携し、とにかく手分けをしていくことが必要となる。島根県の場合は、多くの雇用を抱える地域の事業者グループへの支援として、信用保証協会が中心となり、金融機関や行政とともに話し合いを重ねたことで、支援制度の創設に結び付けた例もあった。

 それぞれの機関が得意な手段でかまわないが、役割分担して1カ所の作業が滞った場合、全体がボトルネックになってしまう。「この企業群」や「この地区」を立て直すなど、共通の目的意識を持って、緩やかな連携をしながら手分けして事業支援につなげることが大切だ。コロナ禍による業況悪化は経営者に非はない。金融機関や支援機関に相談し、頼ることをためらわないでほしい。