自然災害時の地域金融機関の在り方とは 日本銀行那覇支店長 一上響氏に聞く


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一上響氏

 気候変動や自然災害が金融に与える影響に関する調査・研究が、世界各国の中央銀行、中央監督当局などで活発に進んでいる。日本銀行が25、26日に開催する気候変動金融リスクに関する国際リサーチ・ワークショップで、日銀那覇支店の一上響支店長が「気候変動と金融システムの相互作用」の演題で講演する。東日本大震災から10年の節目を迎える中、一上支店長に自然災害発生時の地域金融機関の在り方を聞いた。 (聞き手 池田哲平)

 ―自然災害は、地域の金融システムにどのような影響を与えるか。

 「世界のさまざまな研究で、自然災害は銀行の健全性を悪化させるという結果が出ている。借り手の信用力の低下、貸出金の延滞、不良債権比率の上昇などは統計的に確認されている。借り手側も収益力や信用力の低下、担保の毀損(きそん)がみられるため、金融機関は資金を供給しにくくなる。こうした状況は東日本大震災のデータを用いた研究でも確認された。一方、借り手側は破損した住宅や、倒壊した事業所の修復などで資金需要は高いが、まさにそうした時に貸し出しが十分に供給されないという問題が起こってしまう。信用供給の縮小は、若い企業や小さい企業ほど起きやすいという研究結果もある」

 「被災地域の資金需要を満たすために、他の地域の貸し出しを抑制し、お金を回すということも起こってきた。こうした非被災地での貸し出しの減少は、銀行の貸出額が大きくなく、銀行にとって重要ではない地域などで起こりやすいとの研究結果も見られている」

 ―地域金融機関は気候変動、自然災害を見据えて、どのような経営を推進していくべきか。

 「証券化市場が発達した米国では、地域金融機関が被災地で行った貸し出しを証券化市場で流動化するという傾向が確認された。つまり、地域金融機関は地元企業に対する目利き力で比較優位はあるが、取れるリスクに限界もある。そのリスクはリスクを取れる別の金融機関に取ってもらい、目利き力を活用していることが研究から示唆される。個々の金融機関だけでは困難だが、証券化市場を育成することで、地域の目利き力を一段と生かせる体制を構築していくことも考えられる」

 「長期的な気候変動への対応でも、金融機関は重要な役割を果たしうる。研究では、金融の制約が、企業が環境問題や気候変動に対応するための投資や研究開発を妨げるという結果が出ている。金融機関は気候変動に対応をする企業にしっかりお金を回していけば、気候変動を抑制する上で貢献できる」

 「不動産などの市場価格が、気候変動や自然災害のリスクを十分に織り込んでいないとの研究結果も多い。そうであれば、市場価格を単純に信じて、それを『担保価値』だと判断して融資すると、銀行自身がリスクを抱えてしまうほか、高リスク地域での開発などを促してしまう。ハザードマップを使ってリスクを把握する試みはすでにあり、こうした分析を参考に、リスクを計測する手法を確立していくことも考えられる。地元の企業を知っているのは地域の銀行なので、目利き力を一層高めるとともに、その力を生かす体制をつくっていくことが大切になる」