<記者解説>JA肥育事業撤退、ブランド牛の生産基盤維持が課題 民間売却に懸念も


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JAおきなわが運営する今帰仁肥育センター=17日、今帰仁村

 JAおきなわ(普天間朝重理事長)は、本島内の肥育施設の売却に向けて、県内の農業生産法人と交渉を進めている。最優先課題である農業事業の収支を改善するための取り組みで、売却先がJAおきなわの肥育事業を引き継ぐ。農家の所得向上や生産基盤の維持という、協同組合の方針が適切に引き継がれるか注目される。 (石井恵理菜)

 JAおきなわは2020年3月期決算で、11年ぶりに事業損失を計上した。肥育事業は年間約1億円の赤字で、黒糖の過剰在庫に次いで赤字の大きな要因となっている。

 JAおきなわの肥育事業は、子牛の取引価格が20万~30万円と安価だった時代に始まった。JAおきなわが競りで子牛を購入し、買い支えることで子牛農家の経営維持につながっていた。沖縄が子牛生産量で全国4位の一大産地に成長したことには、肥育事業の果たした役割も大きい。

 近年は子牛価格が高値で推移し、「役目を終えた」という見方もある。新型コロナウイルスの影響で枝肉価格が低迷したことで、コロナ禍前に高値で購入した子牛が、枝肉出荷時には安値の取引になり、赤字が生じている。

 と畜先や飼料の購入先について、これまで通りJAおきなわの子会社を通すことなどの条件に合意する企業を探し、入札方式は取り入れない方針だ。売却先の企業が肥育事業を引き継ぎ、生産規模を維持すれば、JAブランドの「おきなわ和牛」も継続される。

 JAおきなわの前田典男専務は「(売却は)生産基盤を弱体化させないための、経営改善の一つの方法だ。農家を守るという根本的な思いを共有できる企業に譲渡する」と説明する。一方で、営利を追求する民間企業への売却によって「肥育頭数は確実に減少するだろう」(関係者)という懸念もある。

 県内は子牛の繁殖地だが、近年は肥育も盛んでブランド牛も多く台頭している。JAおきなわは、経営の立て直しと同時に畜産振興という使命を両立していくために、関係者への丁寧な説明を通じた合意形成や、売却先企業への確実な引き継ぎが求められる。