ゴール達成に必要なものは?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】18


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毎月第3日曜日に掲載する連載「SDGsって」は1月までに、SDGs(持続可能な開発目標)の全17目標(ゴール)に関わる県内の取り組み事例を紹介した。これらのゴールを達成するために何が必要か。貧困、教育、ジェンダー平等それぞれの分野で活動する人たちに現状認識や課題を聞いた。

プレビュー「自助」優先の風潮危惧

県生活と健康を守る会連合会

 県民所得が全国最下位にある沖縄県。県は子どもの貧困対策として居場所の設置や通学交通費支援などを進めるが、解消はまだ遠く、コロナ禍が追い打ちをかける。

 2010年に設立された県生活と健康を守る会連合会(仲西常雄会長)は、生活よろず相談を長く受け付けてきた。困窮する人たちに向き合い、必要な時は福祉制度を活用できるよう役所に同行もする。相談件数は毎年200人ほどから減らず、その半分は「明日食べるものがない」「手持ちが200円しかない」などぎりぎりの訴えだという。

 県内では、無年金か、月4万円程度の国民年金だけの高齢者も多く、持ち家があっても生活は厳しい。若年層は非正規雇用率が全国一高い。仲西会長は「生活保護基準以下で暮らす人が相当数いる。病気など何かあればすぐに転落する」と指摘した。

生活相談や社会保障制度の向上を求める活動を続ける「県生活と健康を守る会連合会」の仲西常雄会長(左)と相談員の照屋つぎ子さん=9日、那覇市の事務所

 ぎりぎりの生活では、健康保険や年金などの社会保険料の納付も厳しい。介護保険料は制度開始時の全国平均2911円から年々増え、21年度は過去最高の6678円になった。滞納して差し押さえを受けた高齢者は18年度、全国で1万9000人を超して過去最多となった。

 一方で最後のセーフティーネットと言われる生活保護は社会的な目も厳しく、必要な人の利用率は全国で2割程度だ。「制度があっても利用できない」状況について仲西会長は、菅義偉首相が「まずは自助」との理念を掲げるなど公助や共助より自助が優先される風潮の中で、社会保障が後退したと見る。社会保障を成立させるには個人負担ではなく国庫負担が不可欠とし、「憲法にある生存権を保障するため、国には社会保障を進める義務がある。実現させるため社会構造を変える運動をしなければならない」と語った。


プレビュー子遠ざける教育の実態

仲村伊織さんの両親 晃さん、美和さん

 重度知的障がいのある仲村伊織さん(18)=北中城村=は、普通高校入学を目指しているが、「適格者主義」が残る入試に阻まれ、合格はかなっていない。障がい者に対する「合理的配慮」の在り方、定員が空いているのに不合格者を出す「定員内不合格」の問題。伊織さんの挑戦は、障がい者への壁だけでなく、今の教育の問題点をあぶり出した。SDGsの目標4は「質の高い教育をみんなに」。仲村さんの両親、晃さん(54)と美和さん(52)は、実態に即した施策の必要性を訴える。

 晃さんは「視覚障がい者に点字、身体障がい者に車いすがあるように、知的障がい者には知の支えが必要だ。それを分かってもらえない」と指摘した。高校入試について「平等ではあるけれど、公平ではない」という。

 支援員を認めるなど「合理的配慮」を実施しつつ、点数が取れないからと不合格にする。このような状況を美和さんは、「敬して遠ざける」(敬っていると見せ掛けながら内実はうとんじる)と表現する。「障害者権利条約や差別解消法などの国内法が整備されても、教育分野では支援学級増や支援学校がどんどん増えて分離教育が加速している。『敬して遠ざける』という、姑息な手段で障がい者を排除している」

仲村伊織さんの高校入試挑戦で見えた教育の問題を語る父親の晃さん(右)と母親の美和さん=16日、北中城村

 中卒の進路未決定率、高校中退率など、沖縄は全国ワーストの数字が並ぶ。伊織さん以外にも、高校に入れず苦しんでいる子が大勢いるが、県はこれらの子の生活実態を把握できていない。無料塾はあっても、そこに通う意識が向かない子もいる。家庭の問題というが、その親も支援がなく困っていたのかもしれない。晃さんと美和さんが、伊織さんを通して知った子どもの貧困などの問題だ。

 「教育がこんな状態で『持続可能』と言えるのか」と疑問を呈する。SDGsの目標や、県の施策が「絵に描いた餅」にならないために「まずは実態を知ることが大事だ」と訴えた。


プレビュー政治分野で遅れ目立つ

女性の翼

 女性リーダーの育成を目指し、1984年から続く海外研修「女性の翼」は、これまで20カ国・2地域に約500人を派遣してきた。派遣経験者らは交流をしながら年間を通して研修を重ね、政治から福祉、教育まで幅広い分野を学ぶ。

 当初の参加者は、婦人会役員など地域のリーダー役が多かった。派遣回数を重ね、農家や専業主婦など対外的な活動に関わることがなかった人が、経験者に背中を押されて参加することも増えたという。研修で刺激を受け、活躍の場を広げる人も多い。「沖縄県女性の翼の会」の奥村啓子会長は「県内女性議員は海外研修の経験者がほとんどだ。起業した人も多い」と成果を語る。

女性の社会参画促進へ活動する「沖縄県女性の翼の会」の(右から)奥村啓子会長、垣花悦子副会長、崎原末子副会長=12日、那覇市の県三重城合同庁舎

 とはいえ、県労働環境実態調査(2017年度)によると、県内企業で課長職以上の管理職の女性は14.3%。県議会議員のうち女性議員は14.6%。市町村議会ではさらに少なく、政府目標の30%も遠い状況だ。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したように女性を軽視する文化も根強く残る。

 垣花悦子副会長は「乳児検診に来る父親も増え、若い世代を中心に社会は変わりつつある中、政治が一番遅れている」と指摘した。

 奥原会長は、女性の社会参加を妨げる性別役割分担について「古い価値観は自分の中にもあり、家庭で子どもに引き継いでいないか反省はある。誰もが家庭から意識して変わっていく必要がある」と地道な取り組みを重視している。

 崎原末子副会長は「忖度(そんたく)することなく実力を発揮して活躍するには、決定権のある地位に就く必要がある」と指摘し、制度として女性の一定の割合を定める「沖縄版クオータ制」の必要性を挙げた。

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 気候変動、貧困に不平等。「このままでは地球が危ない」という危機感から、世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。世界中が2030年の目標達成へ取り組んでいく。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。他者を思いやり、環境を大切にする取り組みだ。たくさんある課題を「貧困」「教育」「安全な水」など17に整理し、それぞれ目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを無視したり犠牲にしたりすることなく、どの国・地域の人も、子どももお年寄りも、どんな性の人も、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 やるのは新しいことだけではない。例えば物を大切に長く使うこと。話し合って地域のことを決めること。これまでも大切にしてきたことがたくさんある。視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。