社会
沖縄からSDGs

取り組みの現状と課題は?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】19


毎月第3日曜日に掲載する連載「SDGsって」では、SDGs(持続可能な開発目標)の全17目標(ゴール)に関わる県内の取り組み事例を紹介している。これらのゴールを達成するために何が必要か。障がい者の自立生活、安全保障、環境の分野で活動する人たちに現状認識や課題を聞いた。



プレビュー障がい者、分け隔てなく

県自立生活センター・イルカ

 電動車いすを使う吉嶺左恭さん(27)は、バスで宜野湾市の県自立生活センター・イルカに通う。先日の朝、近くのバス停で車いすに下げた小銭入れを地面に落とした。

 吉嶺さんは自力で拾うことができない。行き交う人々に「拾って」と声を掛けたが立ち止まる人はいなかった。諦めてその場を離れ、帰宅時に見に行くと小銭入れはなかった。

「朝の忙しい時間だし、自分も大きい声ではないから聞こえなかったかも。財布は百均だし」。大したことではないと一生懸命説明する吉嶺さんの横で、イルカの長位鈴子代表(58)は「“やさしい差別"の象徴だよ」とつぶやいた。

 道にはアスファルトが敷かれ、階段にはスロープが設置されるなど設備のバリアフリーは数十年で格段に進んだ。露骨な障がい者差別を受ける機会も減った。


「誰が障がい者で健常者か分からない」というNPO法人県自立生活センター・イルカで談笑する長位鈴子代表(左から2人目)、吉嶺左恭さん(右端)ら=宜野湾市の同センター

 だが、障がいがあれば保育園や小学校から分けられ、健常者なら当たり前に経験できる機会もない。「障がい者は相当な苦労を続けないと入れない」(長位さん)という健常者中心の社会はどれだけ変わったか。

 「“やさしい差別"になっただけだ。障がい者を分離して取り残す構造は変わらないのに『誰1人取り残さない』なんて何を言っているのと思う」。SDGsを掲げる人たちへの、長位さんの率直な気持ちだ。

 「誰が障がい者で、誰が健常者か分からない」というイルカの中では、それぞれが自分の必要なことを声に出し、助けを必要とする仲間には手助けをする。「障がい者も健常者も同じように言い合える社会なら、『自立生活支援』なんていらなくなる」。長位さんは、今は障がい者と健常者が接する機会が極端に少なく、互いに遠慮や偏見が生まれると指摘する。「分離するな。まずはそこから」。シンプルな言葉に力を込めた。




プレビューIT駆使し「琉球列島改造」

呉 錫畢さん 沖国大経済学部教授

 地球規模の気候変動に直面し、沖縄でできること、必要なこととは。田中角栄が1972年に発表した「日本列島改造論」になぞらえ、「琉球列島改造」を沖縄国際大経済学部の呉錫畢(おそくびる)教授は提案する。

 2011年の東京電力福島第1原発の事故を受け、全ての原子力発電が一時停止した。再生可能エネルギーへの転換に向けた雰囲気は高まったが、二酸化炭素排出量は11年よりも増えている。県内も、県地球温暖化対策実行計画の基準年となる2000年度と、ほぼ同レベルにとどまる(20年、同計画進捗(しんちょく)管理報告書)。

 二酸化炭素の削減には、再生可能エネルギーの導入や公共交通網の整備、自然環境の保全など、多分野にまたがる多くの対策が必要だ。海外では、再生可能エネルギーの開発を進めるデンマークが大規模な洋上風力発電所を持ち、EU諸国にも電力供給をするという。「沖縄は土地はないが広大な海がある。日本の技術もある。数十年単位のグランドデザインがあれば、沖縄版グリーンニューディール(気候変動対策と経済を両立させる政策)が可能だ」


気候変動をはじめ「ITには社会を変える力がある」と話す呉錫畢教授=宜野湾市の沖縄国際大

 その基盤として最重視するのがIT環境だ。自然エネルギーの送電管理にも、交通網整備もオンライン教育も、いまやITなしには成り立たない。

 長く続いた軍事政権の影響が残る母国・韓国では、ITを駆使する市民が、権力寄りのマスコミに対抗し、社会を劇的に変えつつあるという。「ITには社会を変える力がある。ITを駆使すれば、島のハンディを克服できる」

 今までの政策決定が男性に偏りすぎたとも感じている。「世界の環境政策は女性がリードしている。今までと違う意思決定に向けて、女性がもっと発言できるようになれば」。絡み合った多分野の提案を内包する「琉球列島改造」は、包括的な目標を掲げるSDGsそのもののように響いた。




プレビュー県民と考える安全保障

沖縄未来提案プロジェクト

 SDGsの第16目標「平和と公正さをすべての人に」。沖縄には米軍基地が集中し、中国の軍事的台頭を背景に自衛隊基地も増加する。軍事施設の集中から住民が紛争に巻き込まれる懸念が強まっている。

 過重な基地負担と住民の抵抗の象徴となるのが、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画だ。辺野古移設に反対する民意は、これまでの知事選や国政選挙、2019年2月の県民投票で示されてきた。沖縄の住民や行政レベルではSDGsの理念に沿った行動や訴えを起こしてきたが、結果はほとんど顧みられていない。

 2月に市井の人々の声を行政に届けるべく、有志らが「沖縄未来提案プロジェクト」を立ち上げた。県が22年度からの新たな沖縄振興計画の策定に向け、1月末に骨子案のパブリックコメントを募集した。これに対して、多種多様な業種に就く住民がオンライン会合で意見を寄せ合い、独自のパブリックコメントを作成した。政策決定に住民意思を反映してもらう活動だ。


沖縄未来提案プロジェクト安全保障部会のHP

 2月13日にオンラインで開催された安全保障部会では、SDGsの理念に沿って、米軍基地から発生する水や土壌の汚染問題、基地建設のための海の埋め立てについて批判的な意見が上がった。さらに骨子案は、軍事的な安全保障の観点からの記述に偏り、外交や経済の交流から生まれる「人間の安全保障」の側面が不足していると指摘した。

 部会に参加した音楽講師兼ユーチューバーの多嘉山侑三さんは「個人的には軍事的合理性を欠く海兵隊の沖縄への集中は、著しく『平和と公正さ』に欠く状態だと認識している」と指摘した。

 解決に向けた私案として、在日米軍施設整備の際の手続きを定める、新たな法律の制定や沖縄に一国二制度の適用または独立することを提案した。




SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること


 気候変動、貧困に不平等。「このままでは地球が危ない」という危機感から、世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。世界中が2030年の目標達成へ取り組んでいく。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。他者を思いやり、環境を大切にする取り組みだ。たくさんある課題を「貧困」「教育」「安全な水」など17に整理し、それぞれ目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを無視したり犠牲にしたりすることなく、どの国・地域の人も、子どももお年寄りも、どんな性の人も、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 やるのは新しいことだけではない。例えば物を大切に長く使うこと。話し合って地域のことを決めること。これまでも大切にしてきたことがたくさんある。視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。






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