女子サッカー審判の山内恵美(37)=宜野湾市=は今年2月に県内3人目となる女子1級資格を取得した。国内トップライセンスを得たことで活躍の場が広がることになり、新たな挑戦に向けて奮闘している。親子の絆を深めるきっかけとなった、サッカーへの感謝を胸に、新たなステージへと歩み出す。「審判員として、一人の女性として、母として、いろんな人に憧れてもらえるようになろうと思った」と高い志でここまで駆け抜けてきた。
■家族の支え
サッカー経験はゼロ。笛を持つきっかけは息子がサッカーをしていたから。長男・玲音(れおん)さん(16)=宜野湾高2年=が小3の秋ごろ競技を始めた。しかし、半年を過ぎた頃に「やめたい」と言ってきた。友達の父親が審判などでチームに深く関わっているのを「見るのがつらい」と本音を漏らした。
一人で子育てする中、玲音さんにとって「父親不在」が、心の中で大きなしこりとなっていた。その時に「お母さんが父親役もやる」と決意し、直接そう伝えた。具体的な行動として思いついたのが、チームに数人置くことが必要だった審判だった。4級を取得し、試合を務めるようになると「息子もがらっと変わり、プレーに集中して打ち込むようになった」と振り返る。
兄と同じく次男の颯斗さん(12)=はごろも小6年=はGKとして活躍する。2月に決勝が行われた県ジュニア(U12)大会でFC琉球U―12のレギュラーとして優勝に貢献した。
2人とも審判としての活動を後押ししてくれる。山内が県外で吹くため週末家にいないこともあり、練習の送迎を他の保護者、親族にお願いすることもある。「寂しいと感じていると思うけど、おつかれさまと逆にねぎらってくれる。『必ず1級取ってね』と背中を押してくれた」と語る。
サッカーが家族の絆を深くしてきた。「何でも話し合える親友であり、意見が食い違っても認め合い、尊敬し合える仲。もしかしたら家族という枠を超えているかもしれない」と笑う。「彼らが伸び伸びプレーしてくれることが私にとって一番。どんなにきついトレーニングで心折れそうになるときも頑張って来られた」と2人の存在が困難を乗り越えるパワーの源になっている。
■険しい道
取得していた4級から昇級していくには、その都度、試験が必要だ。3級が吹けるのは県内、2級は九州、1級は全国大会レベルへと級が上がるごとに活躍の幅が広がる。3級の筆記試験を受けた後、県サッカー協会審判委員会の國吉勝也副委員長(当時は委員長)から「2級を目指してみないか」と声を掛けられた。その時、本格的に上を目指す決意が固まった。
平たんな道のりではなく、1級取得を「かなり険しい道だった」と回顧する。仕事に子育て、審判の活動と多忙で目まぐるしい日常を駆け抜けてきた。宜野湾市役所で会計年度任用職員として、現在はひとり親の世帯の学習支援をしている。兼業も許されており、コールセンターでのダブルワークもこなす。その傍ら、週2日をトレーニングの日と決め、努力で1級資格取得を実現させた。
審判の1試合の運動量は5~8キロを走ることに相当する。前後半各45分間、選手と同様にグラウンドを常に走り続ける体力が欠かせない。高校時代は柔道部。興南高の選手として県内大会個人優勝の経験もある。柔道で培った運動能力、基礎体力が生きている。
上級を目指すきっかけとなる声を掛けてくれた國吉副委員長は「厳しい体力テストをクリアし全国でも力が認められた。彼女の姿を見て審判を目指す人が増えてほしい」と期待する。
2級取得後の2016年4月から中学や高校の九州大会を務め、県外出張も増えた。女子サッカーは今年9月に初のプロリーグ「WEリーグ」が新たに開幕する。1級を取得したばかりだが、経験を積み、日本サッカー協会(JFA)から指名を受ければ、国内最高峰のプロリーグを裁くことも可能となる。
山内は「選手に対する理解や共感を大事にしながらプレーで駄目なものは駄目と躊躇(ちゅうちょ)せず伝える。他の審判とのコミュニケーションも重要。副審や線審と共にチームとして試合を管理している。特に得点に絡む場面では集中力を切らさないように意識している」とレフェリングの心構えを語る。
1級資格取得直後の2月下旬、中城村で主審として初の試合に臨んだ。「選手の迫力あるプレーを一番間近で見ることができて、熱い思いが感じられた。楽しみながら笛が吹けた」。サッカーへの情熱を燃やし続ける。
(大城三太)