【深掘り】若さ・実績・ブランドそろう岸本氏 現職陣営は警戒「一番出てほしくない」 来年の名護市長選 


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「一番出てほしくない」

 2022年2月に任期満了を迎える名護市長選に向け、市町村の保守系議員でつくる政治団体「新しい風・にぬふぁぶし」の副幹事長を務める岸本洋平市議(48)が出馬の意向を固めた。玉城デニー知事を支える「オール沖縄」勢力内では、保守系の取り込みを視野に「勝てる候補だ」と歓迎の声が相次ぐ。現職の渡具知武豊市長(59)は2期目への出馬を明言していないが、立候補は既定路線とみられる。渡具知氏の支持者からは、岸本氏の保守層への浸透力を警戒する声も上がる。米軍普天間飛行場の辺野古移設問題で賛否を明確にしない渡具知氏に対し、岸本氏は「新基地反対」を掲げ対抗する。

「オール沖縄」勢力、保守票狙う

 「オール沖縄」内には、元自民党県議だった座喜味一幸氏が1月の宮古島市長選で「オール沖縄」と連携したことで自民などが推薦した現職を破り初当選したことなどを念頭に、「暮らし」の課題が争点となりやすい市長選では「保守層を取り込める候補者」(県政与党幹部)を模索していた。

 そのため岸本氏の擁立について玉城知事も歓迎しているという。知事に近い与党幹部によると、玉城知事は「革新候補よりは、保守も取り込める候補者が良い」と語ったという。

 「一番出てほしくなかった人物だ」とため息を付くのは渡具知氏を支える名護市の男性だ。中道保守系の岸本氏による保守票取り込みを警戒する。岸本氏の父・建男氏は元市長。移設問題で国に15年の使用期限など7条件を突き付けた。「小さな世界都市」構想で金融特区制度を進めるなど強いリーダーシップを発揮し、06年の死去後も保守・革新問わず人気が高い。

 市内の大半の地域は保守の地盤だ。60代以上の保守系の企業経営者も建男氏の街づくりに共鳴したり世話になったりした「建男ファン」が多い。男性は「前回渡具知氏を支持した人も、洋平氏に流れる恐れがある」と危惧する。

 野党市議団などでつくる候補者選考委員会の選考過程では、洋平氏の若さや市議4期の実績、毎回上位当選していることなどがポイントになったという。選考委のメンバーは「市内で岸本家の存在は大きい」とも指摘する。いわゆる“岸本ブランド”への期待だ。洋平氏は前々回の市長選から名前が取り沙汰され、次期市長候補の筆頭とも目されてきた。

 選考委は、建男氏の影響や保守票の取り込みに期待しつつも「そのためには市民の生活向上を含めた政策を示し、前回のような国を挙げての総力戦にも対抗できる体制を構築したい」と気を引き締める。

 洋平氏自身も「新基地反対」を柱に、生活向上の政策を訴えたい考えだ。基地受け入れの見返りに国から交付される再編交付金については「なくても、財政を工夫することで市民サービスの維持向上は可能だ」と自信をのぞかせた。

 自民関係者によると、渡具知氏は早ければ市議会6月定例会の会期中に出馬を表明する見通しだ。稲嶺進前市長に挑んだ18年の市長選では、最大の争点だった辺野古新基地建設について渡具知氏は賛否を示さず「辺野古の『へ』の字も言わない」戦略を徹底した。来年の市長選でも1期目と同様に基地問題の争点化を回避し、市民生活の向上を前面に打ち出すとみられる。

 与党市議の一人は、渡具知市政は子育て施策をはじめ生活の施策で市民の評価を得ているとして「生活の施策が乏しかった革新市政への後戻りを市民は選ぶだろうか」と懐疑的に語った。

 出馬の打診を受諾して1週間後の27日は、建男氏の15回目の命日だった。洋平氏はフェイスブックへの投稿で「名護のことをいつも考え、至誠をもって行動した人だった。変えてはいけないものを心の芯に据えて邁進(まいしん)しよう」とつづった。

 市長選まで約10カ月。両陣営がどう戦いを進めていくか、注目が集まる。

(岩切美穂、吉田健一)