北朝鮮のミサイル発射 米朝関係の緊迫化に注視を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 3月25日、北朝鮮がミサイルを発射した。<政府は25日、北朝鮮が弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射したと発表した。北朝鮮東部の宣徳付近から午前7時4分と同23分に発射し、いずれも約450キロ飛行。日本領域には到達せず、日本の排他的経済水域(EEZ)の外に落下した。北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年3月29日以来で、1月のバイデン米政権発足後初めて>(3月25日、本紙電子版)。

 北朝鮮政府が事実上運営するウエブサイト「ネナラ」(朝鮮語で“わが国”の意味)は本件についてこう報じた。<新しく開発した新型戦術誘導弾は、すでに開発された新型戦術ミサイルの核心技術を利用して弾頭の重量を2・5トンに改良した兵器システムである。/試射を行った2基の新型戦術誘導弾は、朝鮮東海上600キロ水域の設定されたターゲットを正確に打撃した>(3月26日「ネナラ」日本語版)。

 2・5トンの弾頭を搭載する能力のあるミサイルならば核爆弾を装填(そうてん)することも可能だ。

 北朝鮮のミサイル発射に関連して3月末にモスクワから興味深い情報が届いた。情報源はクレムリン(ロシア大統領府)筋だ。

 クレムリンは、米国のバイデン大統領の対北朝鮮政策に対する反発が今回のミサイル実験につながったとの見方を示す。<バイデン政権は北朝鮮に対する対決政策を採ることを決めた。北朝鮮は米国との対話再開の可能性がないことを認識し、新たな危機が始まろうとしている。4月初めに米国が採用する対北朝鮮政策は「瓶の蓋をするアプローチ」と呼ばれ、米国とその複数の同盟国が北朝鮮に圧力を強める。新しい制裁の追加、軍事演習の再開、貿易制限の強化などが行われ、北朝鮮と中国・ロシアとの分断化も試みられる>。

 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記も対応策を練っている。<金正恩・朝鮮労働党総書記は、これに対応することになる。3月半ば、平壌の高官会議では、対米強硬路線の採用が決められ、米国を窮地に追い込むこと、北朝鮮の国益を完全に認めるまで対話復帰はあり得ないことが確認された。北の選択は、軍事力の誇示、そして、新しい危機的状況を生み出すこととなる。平壌は、米国務長官と米国防長官の最近の韓国訪問時の発言に本当に怒りを感じている。彼らは北の人権問題と軍事的脅威について強調していた。北は新型の巡航ミサイルと改良型の弾頭ミサイルの実験をすでに始めている。しかし、前述の会議で決定された、より重要なことは、ミサイル・核プログラムの再開だ>。

 北朝鮮が核実験と長距離弾道ミサイル発射に踏み切れば、北東アジア情勢が再び緊張する。クレムリンは事態が一層深刻になる可能性も排除されないと考えている。

 <平壌の複数筋によれば、ハワイまでの飛行距離を持つ長距離弾道ミサイルの実験が4月半ばから5月初めには実施され、これで対決政策が本格的に始まる。加えて、今後3、4カ月で核実験再開の可能性もあるという。もしこれが実施されれば、朝鮮半島非核化の過去の話し合いは全て反故(ほご)となる>。

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発再開や核実験に踏み込むことになれば、北東アジアの情勢は著しく緊張する。「国防の島としての沖縄の機能を強化せよ」という声が東京の政治エリート(国会議員、官僚)から起き、大多数の日本人もそれを支持するだろう。沖縄にとって厳しい状況になる。県としても北朝鮮情勢について独自の情報収集と分析を行ってほしい。

(作家・元外務省主任分析官)