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心技ともに飛躍、司令塔としての自覚も 女子バスケットボール・安間志織<ブレークスルー>


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Wリーグファイナル第2戦 司令塔として、コート上で仲間に指示を出す安間志織=3月21日、東京・代々木第二体育館

 バスケットボール女子Wリーグでトヨタ自動車を初優勝に導き、県勢初のプレーオフ最優秀選手賞(MVP)に輝いた安間志織(26)=北谷中―福岡・中村学園女子高―拓殖大出。北谷中3年時には中心選手として女子県勢初となる全中制覇を達成した沖縄女子バスケ界のパイオニアの一人だ。しかし、2017年にWリーグデビュー以降は「賞を取れるような選手じゃなかった」とプレー、精神の両面で壁にぶつかっていた。急成長の秘けつは、3点弾の成功率向上と司令塔としての自覚がより強まったことにある。

■自然体のフォーム

 中学時代から鋭いドライブとアシストに定評があり、強豪の中村学園女子高から誘いを受けた。1年だった10年には地元沖縄で開催された美ら島総体で主力として準優勝を果たし、17年にはユニバーシアード大会で日本代表の銀メダル獲得に貢献した。

 しかし同年にトヨタ自に入団すると、3点弾の成功率の低さが弱点として露呈する。「他の選手より私にスリーポイントを打たせた方がいいと思われていた」と、相手ディフェンスに間を空けられてドライブの威力が落ち、リズムに乗れない。19―20シーズンから本格的にフォームの改善に着手し始めた。

 シュートはワンハンドだが、161センチという小柄な体。「力のある男子みたいに簡単に打てないから、一生懸命打ってる感じで硬かった」。エクササイズ「ピラティス」などを導入して体を柔らかくし、無駄な力を抜いた自然体のフォームを模索した。すると「昨季から『これだ』という感覚が出てきて、今季はそれがさらにフィットした」。昨季は30・43%だったレギュラーシーズンの3点弾成功率は、今季39・58%にまで急上昇。「以前よりディフェンスが寄ってくるから抜きやすいし、キックアウトもしやすくなった」と得点、アシストもキャリア最高の数字を残した。

■惜敗を糧に

北谷中2年の頃の安間志織。当時から鋭いドライブを武器としていた=2008年12月

 今季著しく成長したもう一つがメンタル面だ。堅守速攻を掲げる就任2季目のルーカス・モンデーロHCのバスケは中学の頃からなじんだスタイルで、先発ガードに定着。さらに大きな転換点となったのは、昨年12月の皇后杯全日本選手権決勝だ。プレーオフ決勝と同じENEOSに前半で10点以上リードしながら、逆転負け。自身初の大会ベスト5に選ばれたが、ベンチの隅で悔し涙を流した。

 「あの負けは私のせい」と自戒を込める。焦ってチームのスタイルを徹底できず「自分たちは勢いに乗った時はどんどん走って得点できるのに、自分がコントロールし過ぎてみんなの足が止まってしまった」と反省点を挙げる。大一番での敗戦後、チームの雰囲気が一変した。連係の精度を上げるため「いろいろな時間帯や点数差のシチュエーションを想定して練習に取り組むようになり、以前よりコミュニケーションも増えた」という。

 結束力が高まり、自身にも大きな変化が。以前は「自分のプレーがダメだとずっと切り替えられなくて、交代されると素直に仲間を応援できなかった」と未熟な心を抱えていた。しかし、今は「素直にチームが勝てばいいと思える。調子悪くてベンチに下げられても、声を出してずっと楽しめた」と、コート内外問わず、チームを勝利に導く本物の司令塔に成長した。

 迎えたプレーオフ決勝。「次はあそこでディフェンス出てね」「もう少しオフェンス速くいこう」。頻繁に選手を集め、細やかな指示を出す。2戦とも皇后杯と同様に猛追を受けたが、最後まで焦りの色はなかった。「常にポジティブな声掛けをして、後半の方はコントロールに余裕も生まれた」。トヨタ自を初優勝に導き、プレーオフMVPに。皇后杯から3カ月、同じ会場で流した悔し涙は、歓喜の涙に変わった。

 11連覇中だったENEOSの一強時代に終止符を打ち、来季からは追われる立場になる。「変わらず、激しい守備から速いバスケをやっていく。私たちなら連覇も絶対大丈夫」。心技ともに飛躍を遂げた司令塔が、日本女子バスケ界の新たな時代の先頭を走る。

(長嶺真輝)