北朝鮮の菅首相非難 日本への対決姿勢鮮明に<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 北朝鮮が日本に対する対決姿勢を強めている。<北朝鮮体育省は6日、ウェブサイト「朝鮮体育」を通じ、同国オリンピック委員会が3月25日に開いた2021年総会で、東京五輪への不参加を決めたことを明らかにした。世界的に流行する新型コロナウイルス感染症から選手を保護するためとしている。今回の東京五輪に参加しないと表明した国は初めて。日本政府は確認を急ぐ。このタイミングでの不参加表明は日朝関係の冷え込みも背景にありそうだ>(6日本紙電子版)。

 本件に関して韓国紙「中央日報」は、韓国統一部の見方についてこう記す。

 <統一部の当局者はこの日(4月6日)、取材陣に対し「政府は今回の東京五輪が韓半島(朝鮮半島)の平和と南北間の和解協力を進展させるきっかけになることを望んだが、新型コロナ状況でそのようにならないことを残念に思う」と述べた。/その一方で「南北が国際競技大会への共同進出などスポーツ交流を通じて韓半島の平和と協力を進展させることができるきっかけを探していくという政府の立場に変わりはない」とし「政府は今後もスポーツなどのいくつかの分野でこうしたきっかけを探す努力を続けていく」と強調した>(4月6日「中央日報」日本語版)。

 韓国の統一部は、北朝鮮との関係が改善するという希望的観測に基づいて分析しているので、情勢を客観的に見通せていない。北朝鮮は、米国とその同盟国(日本や韓国など)に対して対決姿勢を取ると決定したと筆者は見ている。だから東京オリンピックにも不参加を決定し、米日韓との対話の機会の窓を意図的に閉めたのだ。

 この方針に基づき、日本に対する姿勢を段階的に硬化させている。6日、北朝鮮の国営「朝鮮中央通信」が菅義偉首相を名指しで非難する声明を発表した。

 <先日、日本首相の菅がわれわれの新型戦術誘導弾の試射に対し、「わが国と地域の平和、安全を脅かすもの」「国連決議違反」と言い掛かりをつけた。/これは、われわれの自衛権に対する露骨な否定であると同時に、乱暴な侵害として絶対に看過することができない。/(中略)(日本は)毎年、史上最高金額の軍費をつぎ込んで新しい戦争装備の開発と購入、宇宙作戦と電子戦に対処した新しい部隊の発足と海外派兵、軍事演習に執着している。/(中略)日本こそ、地域の平和と安全を重大に脅かす張本人の一つである。/戦犯国の日本は、他国に言い掛かりをつける前に再侵略の実現のために自国がすでに実戦配備したり、開発を進めている全ての攻撃兵器を完全かつ検証可能に、不可逆的に廃棄させなければならない>(6日「朝鮮中央通信」日本語版)。

 確かに菅首相は、3月25日に北朝鮮がミサイル発射を行った直後に北朝鮮を厳しく批判した。北朝鮮の反応にタイムラグがありすぎる。北朝鮮としては東京オリンピック不参加を表明するのに併せて、日本に対して対決姿勢をとるシグナルを送ってきたのだと思う。北朝鮮が菅氏を呼び捨てにして、名指しで非難したこと自体が、日本への対決姿勢を質的に強化するというシグナルだ。

 この先、北朝鮮が日本列島を超える中距離弾道ミサイルを発射し、太平洋側の日本近海に着水させるというような挑発を行う可能性がある。このような事態になった場合、日本政府も米国政府も沖縄の「国防の島」としての位置付けを高めることになる。北朝鮮の動静が、沖縄にも直接影響することを念頭に置いて、県としても情勢分析に力を入れてほしい。

(作家、元外務省主任分析官)