【識者談話】ハーバード大教授論文は巧妙なヘイト データの使い方も問題 親川志奈子・沖縄大非常勤講師


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親川志奈子氏

 ハーバード大のJ・マーク・ラムザイヤー教授については、「慰安婦」の問題で大きな論争になって知った。沖縄について書かれた論文を読み、「対岸の火事」ではなく、私たち自身ももっと意識を持つべきだったと反省した。一番の問題は彼がマイノリティーの貧困問題などを「該当民族の特質」として取り上げた点だ。このような議論は米国では問題になると書きながら、日本では自由に行えるだろうとして、被差別部落や在日コリアン、沖縄人を取り上げた。そのような素地が今の日本にあるということだ。最近は、沖縄文化論をうたい、構造的な不合理性からは目を背け、基地問題や貧困といった「沖縄問題」を沖縄人の自己責任論に帰納させる言説があふれている。オリエンタリズムのまなざしを野放しにしてきた結果ともいえる。

 この論文は、リベラルの文献をアリバイのようにちりばめた巧妙なヘイト論文だ。ハーバード大教授という肩書の英語の論文だが、基にしている多くの本は日本のいわゆる「ネトウヨ本」。データの使い方も社会科学の手法ではなく、学術的に非常に甘いが、分からない人から見れば、ばれないと踏んだのだろう。沖縄を知らない英語圏の人々にどう読まれたかを懸念する。基地問題をはじめ世界に発信していかなければならない「問題」が山積みだが、英語での発信は不十分だと感じている。ヘイトを放置せず、世界の沖縄人とつながり、声を上げていかないといけない。
 (社会言語学)