離島の製糖業「残業規制」で存続ピンチ 白砂糖工場の刷新に巨額負担「行政支援を」


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 県の基幹作物サトウキビを原料とした製糖業で、2024年4月から時間外労働勤務(残業)の上限規制が適用される。県内産糖量の9割を占め、白砂糖の原料となる「分蜜糖」の工場では、集中制御室を設けるなどして自動化、集中管理化を進め、少ない人員でも稼働が可能な、効率の良い設備への転換を検討する。だが、設備投資に対して行政の補助が十分に得られず、新しい設備の更新は進んでいない。法律適用まで3年と迫る中、時間外労働の抑制をいかに図るか、業界に焦りが募る。

分蜜糖をつくる北大東製糖の工場(北大東製糖提供)

 19年4月に施行された働き方改革関連法で定められる残業時間の上限は、1カ月で100時間未満、連続する2カ月から6カ月の間の1カ月平均を80時間以内に制限する。20年4月から中小企業まで適用対象が広がったが、沖縄と鹿児島の製糖業は激変緩和の目的で、24年まで5年間の猶予期間が設けられた。

■繁忙期3交代制へ

 日本分蜜糖工業会によると、製糖シーズンの繁忙期には、各工場ともに季節工員を雇い、2交代制で24時間稼働している。猶予期間が終了すれば、残業規制の上限を超える勤務体系となってしまうため、工場を稼働させるために3交代制への変更などが必須となる。

 3交代制への変更により、製糖に携わる人員を増やさなければならない。季節工員にとっては、期間中の残業が減ることで、1人当たりの手取り収入は減少が見込まれる。賃金面で魅力が減り、工場の稼働に必要な人手の確保が難しくなるのではないかとの懸念が上がっている。

 役職員数25人の北大東製糖(宮城一也社長)は、今期43人の季節工員を迎え入れた。北大東島には民間のアパートなどはなく、宿舎整備、従業員の食事、運搬業者などを含めて製糖会社で手配している。

 宮城社長は「大きな離島などは3交代制にしても人が集まるかもしれないが、北大東では厳しい。将来、子どもたちが安心して暮らせるよう、島の産業を守るために島ごとの事情をくみ取ってほしい」と訴えた。

■地域社会の維持

 県内九つ(本島、伊是名島、久米島、南大東島、北大東島、宮古島3、石垣島)の分蜜糖工場のうち、伊是名を除く8工場は築58~62年と、老朽化が著しい中で製糖を続けている現状がある。効率の良い最新型の設備を導入すれば、安定操業に加えて、工場のラインに必要な人数を抑えることもでき、働き方改革法に対応する「切り札」となる。

 だが、多額の費用負担が設備投資に踏み切ることをためらわせてきた。

 北大東製糖でも、工場の建屋は築60年を超え、老朽化が著しい。心臓部のボイラーも1962年製で、種子島の製糖工場で使っていたものを約40年前に譲り受け、メンテナンスをしながら使い続ける。

 同社は工場の効率化に向けて建て替えも検討するが、一般的に製糖工場の建て替えは150億~300億円の設備投資になるとされ、自社だけで負担は賄いきれない。

 地域の特産品とされる「黒糖(含蜜糖)」に対しては、内閣府の一括交付金で工場整備の補助メニューがあり、県負担を含め最大9割の補助が受けられる。県内の含蜜糖工場は補助を受けて、20年度までに新工場整備を終えたという。

 一方、白砂糖の原料となる分蜜糖の製糖工場は、農林水産省の設備投資事業が6割補助にとどまり、県や市町村の上乗せを受けることもできるが、行政側の理解が進んでいない。日本分蜜糖工業会の上江洲智一会長は「法律を守るための設備投資には膨大な資力が必要となる。製糖工場とサトウキビ農家は車の両輪で、工場がなくなると島の産業が廃れ、地域社会を維持することができない」と、行政側の積極的な支援を求めている。

(池田哲平)