ワーケーション 沖縄に新たな企業誘致 移住 遠隔経営を実践 さくらインターネット 田中邦裕社長


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IT産業を県の有力産業として取り組むさくらインターネットの田中邦裕社長(同社提供)

 新型コロナウイルスの影響で、働く場所を選ばない「テレワーク」が進む中で、沖縄に移住した県外企業のトップがいる。東証1部上場のIT(情報技術)ベンチャー企業、さくらインターネット(大阪市)の田中邦裕社長は昨年4月、家族と沖縄に移住し、日々リモートワークで約700人の社員を指揮している。田中氏は「リゾート地の沖縄にはスタートアップ(新興企業)を呼べる力がある」と語り、「ワーケーション」による新たな企業誘致の可能性などを示唆した。

 データセンター運営のさくらインターネットは1996年に、当時、舞鶴工業高等専門学校の学生だった田中氏が創業した。ウィンドウズ95の登場などでインターネットの利用が広がる時流に合わせ、国内を代表するスタートアップ企業として成長してきた。

 田中氏は社業の傍ら、趣味のダイビングなどのため年6回ほど沖縄に通っていた。「ホテルの宿泊料金が高まってきているので、賃貸した方が沖縄に滞在できる日数も長くなる」と考え、2019年に那覇市内に賃貸物件を借りた。

 沖縄滞在用の賃貸物件を借りた後も、しばらく大阪や東京の事務所に出社していた。そこに新型コロナの感染拡大で、昨年初めからは東京の自宅からの在宅勤務に切り替わった。「東京の家からリモートワークなら、沖縄にいても変わらない」。沖縄に住まいを移して本格的にリモートワークを始めた。

 現在、県内でコワーキングスペースを借りており、社員らが県内でもリモートワークできるよう支援している。田中氏は「リモートワークは子育ての人も働きやすい。わざわざ東京に行かなくても出世するチャンスがある」とテレワークの利点を語る。

 田中氏は現在、スタートアップの県内誘致などを図る「沖縄ワーケーション研究会」の一員として、県内の有望スタートアップに投資を進めている。田中氏は、観光産業と比べ、世界情勢の変動に影響されにくいIT産業に着目すべきだと指摘。「沖縄は基地の撤去を訴えているが、まずは県内で有力産業を作り、県民の所得を上げていかないといけない。観光業が強い沖縄は、観光×ITのスタートアップが期待できる」と語る。

 これまで高度のIT人材が沖縄に集まらない理由の一つに、賃金の低さを挙げる。県内のIT企業の業務は下請けの比率が高く、従業員の賃金も上がらない構図があるとする。

 田中氏は「東京と同じ賃金で採用すると、高いレベルのエンジニアも沖縄に来てもらえる。ITスタートアップで新しい雇用が生まれれば、沖縄は変わってくる」と強調し、「スタートアップが集まる場所を作っていくには、行政や銀行など関係機関で取り組まないといけない」と提起した。 (呉俐君)