地方メディアは読者と向き合えているか? ツイッター社が記者と音声イベント 世界報道自由デー


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世界報道自由デーに合わせてツイッター社が開催した音声イベントに参加した地方紙などの記者ら=2日

 5月3日は世界報道自由デー。報道の自由の大切さを政府などに喚起させるために国連が定めた日で、単文投稿サイトを運営するツイッター社はこの日に合わせて2日、「ローカルジャーナリズム」をテーマに、琉球新報など沖縄の2紙を含む地方紙の記者らを交えたトークイベントをツイッター上で開催した。全国紙とは違う、地元の住民の目線に立った情報発信の在り方や地方紙同士で連携していく可能性を模索していくことを確認し合った。

 イベントはツイッター上で音声だけで会話する「スペース」機能を使ってやりとりした。沖縄から琉球新報と沖縄タイムスのほか、秋田魁新報と西日本新聞、朝日新聞、NHKの記者らが登壇した。

 ツイッター社は、世界報道自由デーに合わせて全世界でジャーナリストと報道を支援する取り組みを展開している。日本ではハッシュタグ(検索目印)「#記者をフォローしよう」で広く利用者にも支援を呼びかけている。

 陸上イージス・アショア計画のずさんさを暴いた秋田魁新報の松川敦志さんは「地方メディアの存在意義は、全国一律の政策に対して特定の地域から見えてくるおかしさだけに寄り添って書いて、それにも耐えうる政策なのかを問うことだ」と強調した。その上で「伝え方の工夫が業界でできていない。その意味ではまだ伸びしろがいっぱいある」と話した。

 琉球新報の滝本匠さんは、東京の防衛省などで取材した経験を引き合いに「地方紙の記者は、地域の生活者としての視点から書いている。沖縄にある全国の基地問題を、東京の防衛省で話を聞いて書く中央の記者と違う。その違いがなかなか地域の課題が全国の問題として広がっていかない一因ではないか」と問題提起した。その上で「個人的には昔は読者から電話を受けて話を聞いてネタにもつながっていた。最近はどこまでつながれているか。読者を意識できているのか。デジタルの時代だからこそ双方向につながっていきたい」と語った。

 沖縄タイムスの比嘉桃乃さんは「基地問題が全国に届いていないと言っても、逆に原発の問題に向き合っているだろうかと立ち止まって考えることがある」と自省した。その上で地方の話題を追いかける地方紙の役割を挙げて「最後に生き残るのは地方メディアかと。それが連携して同じ課題に取り組めていけたらいい」と話した。

世界報道自由デーに合わせてツイッター社が開催した音声イベントの告知画面

 読者の要望に応じて取材するジャーナリズムオンデマンドとして「あなたの特命取材班(あな特)」を展開する西日本新聞の福間慎一さんは、「あな特」の経験から「1人に疑問は他の人の知りたいことかもしれない、困りごとかもしれないという視点につながった」と話した。さらに「(新聞の)読者離れというが、実は新聞の方が読者から離れていってはいないかとずっと感じている。まだまだやれるんじゃないかと痛感している」と問題提起した。

 熊本日日新聞や西日本新聞、日本経済新聞などを経て現在はNHKに所属する井上直樹さんは「新聞は行政や政治家の良くないことを指摘して問題提起はするが応援してくれないと思われているようだ。地域の一員として前向きな提言も発信していきたい」と地域メディアの在り方に言及した。

 朝日新聞でスマホ向けメディア「withnews」で編集長を務める奥山晶二郎さんは、全国紙の立場から「自分たちにしかできないことを絞り込んでいこうと改めて感じた」と語り、今回のイベントのようなつながりの大切さにも言及した。

 司会を務めたツイッターの谷本晴樹さんは地域メディアについて「地域に住む読者と同じ生活圏にいる強みがある」とまとめた上で、視聴者に対して「よろず相談所」として地域メディアへの支持を呼びかけた。

 世界各国の報道自由度合いを毎年まとめている国境なき記者団の世界報道自由度ランキングで、日本は2021年は179カ国中67位。20年の日本は66位、19年は67位だった。1位は連続してノルウェー。