自衛隊配備 島の未来 話し合おう 石垣、住民投票訴え続く<求めたものは>6


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
マンゴーを育てるビニールハウスで作業する金城龍太郎さん=4月27日、石垣市

 石垣島の中央部にある県内最高峰・於茂登岳の麓は、パインやマンゴーの栽培が盛んな地域だ。「酸性土壌で、農業ではすごく貴重な一等地なんです」。農家の金城龍太郎さん(30)は、地元の特徴をこう語る。一帯は現在、陸上自衛隊の駐屯地の建設が進む。金城さんは「石垣市住民投票を求める会」の代表を務め、陸自配備計画の賛否を問う住民投票の実施を訴えている。

 石垣市の嵩田地区で生まれ育ち、八重山高校を卒業後、米国の大学に進学。4年で卒業し、米国でのサラリーマン生活を経て、14年に島に戻った。以来、実家のマンゴー農園で働く。15年11月、平得大俣への陸自配備計画を報道で知る。

 沖縄への自衛隊配備は日本復帰に伴うものだ。日米間の返還交渉の中で、自衛隊配備も議論された。県民の配備への拒絶反応は強かったが、配備が決定。72年10月に本格移駐した。

 政府は近年、南西地域の防衛強化を掲げている。防衛省は2016年に与那国島、19年には宮古島市に駐屯地を開設した。

 地元で突然浮上した配備計画。金城さんは防衛省や市の説明は十分でなく、情報不足だと感じた。中山義隆市長は16年12月、候補地周辺地区の住民と面談しないまま、受け入れを表明した。

 計画は市民の分断を引き起こした。賛否を巡り、ぎくしゃくした人間関係に。金城さんら若い世代が中心となり、18年10月に求める会を発足させた。住民投票に向け、署名集めを始めた。1カ月で集めた署名は有権者の4割近くの1万4263筆に上った。署名には住所、氏名、生年月日、印鑑を要する。「勇気を持って署名してくれた」と重みを感じた。住民投票ができると確信していたが、市議会は実施の条例案を否決した。

 市自治基本条例は、有権者の4分の1超の署名で「市長は所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない」と規定する。金城さんらは、議会で否決されても、市長は住民投票実施の義務を負うと指摘する。一方、市は否決された時点で請求の効力は消滅したと主張。議論は平行線をたどった。

 計画は進んだ。周辺住民らは、配備による地下水源の汚染や生態系への影響を懸念し、環境影響評価(アセスメント)の実施を求めた。防衛省は必要性を否定し、19年3月に着工した。

 行き詰まっていた時、市に住民投票の実施義務があるかどうか、司法判断を仰ぐのはどうかと提案を受ける。人間関係が密な島社会。裁判は抵抗があった。会で話し合い、「多くの人が示した勇気に応える責任がある」と判断し、19年9月に提訴した。

 司法でも、期待は裏切られた。昨年8月の一審那覇地裁判決は住民投票の実施の義務付けについて「訴えの対象となる行政処分に当たらない」とし、訴えを却下。二審福岡高裁那覇支部でも認められなかった。

 失望しつつ、諦められなかった。「国の方針は大切だが、みんなで話し合うのも大事だ」と考える。今年4月、金城さんら会のメンバー3人は、住民投票ができる権利があることを市に確認する訴訟を新たに起こした。

 署名活動開始から2年半が過ぎた。仕事や家庭などの事情で、活動を続けられなくなったメンバーもいる。それでも可能性がある限り、住民投票実施の道を模索する。「話し合い、違いを認め合えれば、良い社会になる。住民投票の実現はその一歩になる」。急速に変化する島の未来を思い描いた。

(前森智香子)