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バイデン政権の中東政策 イランとの対話を模索<佐藤優のウチナー評論>


バイデン政権の中東政策 イランとの対話を模索<佐藤優のウチナー評論>
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米国は地球儀を見ながら外交・安全保障戦略を立てている。鍵を握るのはイランだ。沖縄の安全保障環境を分析する場合にも、米・イラン関係が重要な与件になると筆者は考える。バイデン政権の対イラン政策が、オバマ政権よりは厳しくトランプ政権よりは緩い。イランは、米国の中東政策の変化を注意深く観察した上で、興味深いシグナルを送っている。

 特に興味深いのが、4月26日のロハニ(ローハーニー)・イラン大統領の発言だ。この発言は、5月1日にオーストリアの首都ウィーンで、米国とイランの間接協議を巡る合意当事国の全体会合が開催されることを念頭に置いてなされたものだ。

 <ローハーニー大統領は26日月曜、経済活動家らとのグループ会談において、イラン国民に対するトランプ米前大統領の経済戦争の目的は、国家崩壊と体制の転覆にあったとして、「今日、イラン国民の抵抗、イスラム革命最高指導者の指示、これまでに行われた様々な努力によって、全世界、さらに米国自身が、経済戦争に敗北したことを認めている」と述べました>(4月27日「ParsToday」日本語版)。

 ロハニ大統領は、イランと米国の関係悪化の原因をトランプ前大統領の属人的なものとすることで米国との関係改善を追求しようとしている。

 このタイミングでインテリジェンス面でイスラエルが、米国を支援している。ロシア政府が事実上運営するウェブサイト「スプートニク」が、4月30日に米国の首都ワシントンで行われたバイデン大統領とモサド(イスラエル諜報(ちょうほう)特務局)のコーエン長官との会談についてこう報じた。

 <ジョー・バイデン大統領はイスラエル対外諜報機関「モサド」のヨシー・コーエン長官と首都ワシントンDCで会談し、イラン情勢を協議した。米国のニュースサイト「アクシオス」が情報筋による証言をもとに報じた。/アクシオスの情報筋によると、対外諜報機関「モサド」のコーエン長官は別件でワシントンDCを訪問中で、バイデン大統領との会談は4月30日になって急遽(きゅうきょ)開かれることになったという。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はバイデン大統領との会談を前にイランに関する情報をコーエン長官に提供し、バイデン氏との会談後に長官から更新された情報を受け取ったとのこと>(5月2日「スプートニク」日本語版)。

 イランが核兵器を保有した場合、イスラエルに対して使用される可能性がある。イスラエルは、事態をこのまま放置すれば、10年以内にイランが事実上の核保有国になると見ている。イランの核保有によって、中東でサウジアラビア、エジプトなども核兵器を保有するというドミノ現象が起きる可能性が高い。イスラエルとしては、米国が対話戦術を巧みに用いてイランの核開発を遅延させ、その間にイランの体制転換の可能性を追求することを考えているのだと筆者は見ている。<イラン核合意の再建に向け、米国とイランの間接協議を巡る合意当事国の全体会合が1日、ウィーンで開かれた。米イランの主張にはなお隔たりがあるが、仲介役の欧州諸国を含めた関係国の間で、5月中旬までの合意を目指す動きが本格化した。各国の交渉団はいったん本国に戻り、7日にウィーンで協議を再開する予定だ>(5月2日「共同通信」)。

 この報道から判断すると、米国はイランとの対話路線にかじを切りつつあるように思える。バイデン大統領に対するコーエン「モサド」長官の助言が無視できない影響を与えていると見るのが妥当だ。米・イラン関係が動き始めるとバイデン大統領の関心は中国よりも中東に傾く。

(作家・元外務省主任分析官)