【深掘り】土地規制法案 国会審議へ 私権制限 懸念相次ぐ 国の調査権限あいまい


【深掘り】土地規制法案 国会審議へ 私権制限 懸念相次ぐ 国の調査権限あいまい
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政府は安全保障上重要な土地の利用を規制する法案を閣議決定し、議論の舞台は国会へと移った。11日の衆院本会議で審議入りし、趣旨説明と質疑が始まる。自衛隊、米軍基地周辺の土地所有者らを対象にした政府当局による調査が、個人の思想や人間関係に及ぶ可能性が指摘されている。私権の制限を伴う影響力に対し、国に与えられる調査権限の範囲があいまいなことなどが、法案に対する疑念が増す要因となっている。

 「住民にスパイ容疑をかけて監視対象にするものではないか」。4月27日の参院外交防衛委員会で伊波洋一氏(沖縄の風)は、土地利用規制法制定の狙いに懸念を示した。

■公簿類を調査

 法案は、防衛施設周辺での電波妨害など、基地機能を阻害するために土地が利用されるのを防ぐことを目的とする。防衛施設からおおむね1キロ以内の土地について、不動産登記簿だけでなく、住民基本台帳などを基に所有者の氏名や住所、国籍、利用実態を調査する権限を国に与える。

 だが、土地利用を悪用する可能性を公簿類から絞り込むのは難しいため、個人の思想や人間関係などを把握し、資料と照らし合わせる情報機関の関わりが想定される。

 政府は、法案によって個人の思想信条を調査することを否定した。一方で、集めた情報を公安調査庁や内閣情報調査室といった情報機関に提供することは、「関係行政機関等の協力を得つつ、所要の分析を行うこともあり得る」として実施する考えだ。

 野党からは、規制の実効性に対しても疑問が呈されている。法案は、必要に応じて所有者から利用実態を報告聴取できると定めるが、「機能を阻害する行為を試みようとする人が、(利用実態を)きちんと届け出るのだろうか」(4月6日の衆院安全保障委で屋良朝博氏)と指摘が上がる。

 赤沢亮正内閣府副大臣は「多分(届け出て)来ないだろうと思う」と指摘を認めつつ、それでも調査を行えるようになることの意義を強調した。

■異例の自国民対象

 同法案は、外国資本によって防衛施設周辺の土地が買収されることへの安全保障上の警戒感から、規制を目指すといった説明がなされてきた。だが、法律が対象とするのは外国人だけでない。政府が指定する注視区域内に既に暮らす自国民も調査の対象となる。

 その理由として政府は、外国企業による土地取得は間にダミー会社が入る場合もあることなどから、「日本人と外国人で区別はしない」と説明する。

 防衛施設周辺の土地規制は、米国など複数の国が法制化している。しかし、既に暮らす自国民にも調査が及ぶというのは、世界的にも異例だ。

 政府によると、既に暮らす国民を調査対象とするのはバージニア州などに限られる。同州の制度は「土地利用が変更される場合」に、事前通知を受けた軍が審査する。対象区域の全国民を調べる仕組みは「承知していない」という。

 政府は、諸外国が土地の取得段階で審査・規制するのに対し、日本の法案は所有の規制ではなく、土地の使い方を調べるという制度の仕組みに違いがあると説明。この違いにより、自国民を含めた全ての所有者が調査対象となることとして理解を求めている。

 多くの懸念がある中でも法制化を急ぐ政府だが、重要施設への機能阻害行為が国内で確認された事例がこれまでにないことを認めている。そもそもの立法事実に欠くことが、法案の必要性を問う声につながっている。

(知念征尚)