今も続く外来種との「いたちごっこ」 登録から10年迎えた小笠原はいま<沖縄・奄美 世界遺産に>下


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
生態系の価値が評価され世界自然遺産に登録された小笠原諸島=2018年7月

 東京の都心から南へ約千キロ。週1便の定期船で片道約24時間かかる小笠原諸島は、世界自然遺産に登録されて今年で10年を迎える。大陸とつながった歴史がなく、多くの固有種が存在する生態系が育まれてきた。ただ、遺産登録の審査の過程から現在まで、外来種の対策に頭を悩ませている。

 長く無人の島々だった小笠原では、1830年に欧米人らが最初に定住を始めた。明治に入って日本領土となり、太平洋戦争後1968年まで米統治下に置かれた。この間に家畜やペットとして持ち込まれたヤギやネコが野生化し、生態系に影響を及ぼしている。

 小笠原諸島のみに生息するアカガシラカラスバトは、ノネコの捕食などにより絶滅が危ぐされていた固有種の一つだ。ノネコの被害からどう守るか。2008年に父島で国際ワークショップが開かれ、地域住民も一体となって計画を議論。捕獲したノネコを殺処分せず本土で飼い主を見つける取り組みも進み、一時は40羽程度とされたアカガシラカラスバトの個体数は数百羽まで回復した。

 11年の自然遺産登録で、小笠原諸島は世界遺産委員会から「侵略的外来種対策の継続」を要請された。個体数が回復した固有種がある一方で、新たに顕在化した外来種の脅威にさらされる生物も相次いでいる。

 小笠原諸島に100種類以上が生息する陸産貝類(カタツムリ)はその90%以上が固有種で、自然遺産登録を決める立役者となった。だが近年、プラナリアやクマネズミの捕食により数が激減している。小笠原諸島固有の昆虫を好んで補食する北米産のトカゲ「グリーンアノール」も生息域を広げている。

 「小笠原は陸につながらずに生き物が進化してきた島で、外来種に対して非常にぜい弱。外から入ってきてしまうと食い止めるのは難しい」。父島にある環境省小笠原自然保護官事務所の担当者はそう説明する。

 小笠原諸島を訪れる観光客は年間約3万人。行政は外来生物を持ち込ませない対策にも苦心する。

 対策には外来種同士の関係にも目を配る必要があるという。ノネコを駆除すれば別の外来種のクマネズミが増え、草を食べるヤギを減らすと外来植物が繁殖してしまう可能性がある。「いたちごっこ」や「モグラたたき」の状態が続く。

 小笠原諸島の事例は、自然遺産の維持管理することの難しさを投げ掛けている。

(當山幸都)