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スコットランド独立派過半数 自己決定権掲げ差別に対抗<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 5月6日に投票が行われた英国のスコットランド自治議会選(定数129)では、英国からの独立を主張する与党「スコットランド民族党」(SNP)が64議席を獲得して第1党を維持した。単独過半数には1議席足りなかったが、独立を支持する「緑の党」8議席と合わせると独立派が過半数を制した。

 <スコットランド議会選は小選挙区が73議席で比例が56議席。少数与党政権を担っていたSNPは前回選挙(2016年)比1議席増の64。緑の党は8議席(前回比2増)へと伸ばした。独立反対派は、保守党31(同増減なし)、労働党22(同2減)、自由民主党4(同1減)となった。/勝利宣言したSNP党首のスタージョン自治政府首相は「ジョンソン氏や誰かが、自分たちの未来を選び取るためのスコットランドの人々の権利を阻もうとすることは、断じて民主的に正当化できない」と英政府をけん制した。SNPは新型コロナウイルスの感染収束後に住民投票の実施を目指す方針だ>(9日「毎日新聞」電子版)。

 14年9月18日に行われた住民投票では、独立反対が多数を占めた。投票結果は、反対が200万1926票(55・25%)、賛成は161万7989票(44・65%)、投票率は84・6%だった。

 このとき、英国への残留賛成派は、スコットランドが英国から分離独立すると必然的にEUから離脱することになるので、経済や人的往来で大きな支障が生じると主張し、それが独立に反対する世論を形成する上で無視できない役割を果たした。英国がEUから離脱した今日では事情が変化した。スコットランドでは、英国から離脱し、独立国スコットランドとして、EUに加盟すべきだという声もある。

 SNPのスタージョン党首は9日、ジョンソン英首相と電話会談し、独立の是非を問う住民投票実施を認めるよう要求した。もっともスコットランド独立の是非を問う住民投票は、英国議会が議決しなければ実現できない。ジョンソン首相が率いる保守党のみならず、野党の労働党も住民投票を行うべきでないと考えている。

 スコットランドのグラスゴー近郊には英国唯一の核兵器を搭載した潜水艦の基地がある。安全保障上の理由からも英国政府はスコットランドの分離独立を防ぐために全力を尽くすであろう。

 いずれにせよロンドンの中央政府の政策により、基地負担、経済でスコットランドが構造的に差別された状況にあることに対して、スコットランド人が自己決定権を対置し、異議申し立てを行った意味は大きい。英国議会がスコットランドの独立の是非を問う住民投票の実施を阻止するという姿勢をかたくなに取るならば、今後、スコットランドが一方的に独立に向けた動きを強化する可能性がある。英国の国家統合が揺らぎ始めている。

(作家・元外務省主任分析官)