<琉球料理は沖縄の宝 安次富順子>3 豚肉文化、余すところなく 食材組み合わせて健康食に


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ラフテー

 沖縄で肉(シシ)といえば豚肉を指すほどで、豚肉は私たちの食生活に深く浸透しています。豚は14世紀前半には伝えられたといわれています。14世紀以来続いた中国との交流により肉食文化の影響を受け、獣肉を食べてきました。17世紀頃までは牛肉が主だったようですが、その後豚肉が主に変わっていきました。日本の仏教思想に基づく「食肉禁忌」の影響は浸透せず、法事においても豚肉料理が供えられます。沖縄の食文化は豚肉文化なしには語れません。

牛から豚へ

 沖縄は、豚肉文化だといわれていますが、昔から豚肉文化だったのではありません。豚肉食の以前は牛肉食だったとされています。その裏付けとして、16世紀前半、中国への貢ぎ物に牛革があったこと(肉は食べられていたと思われます)、冊封使への支給は牛肉が主体であったこと、「羽地仕置」(1667年)で牛、馬は農耕に役立つため、牛を屠(ほふ)ることを禁じていることなどがあります。

 また、冊封使王楫(おうしゅう)(1682年)は、琉球王府からの牛の提供に対し、牛は労役に必要なので屠殺(とさつ)しないようにとの忠告をしており、その後、冊封使に対するもてなしは牛から豚に変わっていきました。その結果、冊封使への支給のための豚肉の需要が増え養豚が盛んになります。気候が豚の飼育に適していたこと、甘藷(かんしょ)(中国より伝来)が飼料に適していたことなどが養豚を大いに支えました。それに加えて蔡温が18世紀前半に豚の屠殺や共食を薦めたことで、民間にも豚肉食が普及しました。

豚肉料理の特徴
 

中身の吸い物
デークニーイリチー

 頭の先から足の先、血や内臓に至るまで使いこなします。それも特殊な人のみが調理をするのではなく、ごく一般の家庭で当たり前に調理されています。余すことなく使いこなすのは、それだけ豚を熟知している証拠です。豚肉の部位の分け方も本土とは違い、かなり細かく分かれており、また、皮付き肉、骨付き肉、内臓を使うのも特徴です。

 さらに、生肉を使うことは非常に少なく、一度ゆでて使います。部位によっても違いますが、ゆでることで脂とコレステロールをかなり減らすことができます。豚骨や肉をゆでて取る豚だしは、琉球料理にはなくてはならないもので、旨味(うまみ)を料理に生かし、さらに塩分を抑える効果もあります。豚肉だけを使った料理は少なく、野菜や海産物と組み合わせて作る汁物やイリチーなどが多く、栄養のバランスが取れ、健康食を生み出しています。特に沖縄では採れない昆布と一緒に使うことが多く豚肉と昆布の旨味の相乗効果が生まれます。

豚肉料理いろいろ

耳皮さしみ

 ラフテー(豚の角煮)、中身の吸い物、肉を使った汁物、アシティビチ、耳皮さしみ、血イリチー、アンダンスー(油みそ)、スーチキー(塩豚)、ハンチュミ(肉でんぶ)、など多数の豚肉料理がありますが、代表的なラフテーに触れてみたいと思います。

 ラフテーは、皮つき三枚肉を砂糖、しょうゆ、泡盛でじっくり煮込んで作る角煮です。泡盛が加わることで、肉が柔らかくなり、コクが生まれます。元々は保存食で味は濃く、上に浮いた脂が固まって空気を遮断し保存性を高めました。戦前の祝宴の献立にはラフテーは見当たらず、今のラフテーに相当する料理はンブシ豚、煮染め豚と出てきます。いつごろからかは定かではありませんが、保存食だったラフテーの味が薄くなり、沖縄を代表する料理に代わってきました。長時間煮込むと皮がお箸で切れるくらい柔らかく、べっ甲色になり、とろけるような皮の触感と、わずかに残る脂と泡盛の香りが一体となって味を引き立てます。

 最近、豚肉を味噌(みそ)で煮込んだものに「味噌ラフテー」と言っていますが、豚肉を味噌でやわらかく煮込んだものは「味噌煮豚」というのが本来の名前があり、ラフテーとは別物です。ラフテーは、砂糖、醤油、泡盛で、じっくり煮込んだもので、単に肉を柔らかく煮込んだものを指すのではありません。ラフテーは、沖縄を代表する料理なので、ラフテーの持つ、皮つき三枚肉の独特の味わいを大切にしたいと思います。

 ラフテーは、中国の詩人蘇東坡(ソトウバ)が好んで食べたといわれている「東坡肉(トンポウロウ)」が伝えられたものとされています。

 長寿日本一を誇っていた2000年頃までは、豚肉の使用量も日本一と多く、長寿三大食(豚肉、豆腐、昆布)といわれていました。近年は誇れるほどは使われなくなっています。最近はアグー豚の復興に始まりいろいろの豚のブランド化が進み、おいしい豚肉が増えてきて、県内外にシェアを広げています。

 (琉球料理保存協会理事長)
 


 安次富順子(あしとみ・じゅんこ)

 那覇高校、女子栄養大学家政学部卒。1966年~2016年まで新島料理学院、沖縄調理師専門学校(校長)勤務。沖縄伝統ブクブクー茶保存会会長。主な著書に「ブクブクー茶」「琉球王朝の料理と食文化」「琉球菓子」など。


ウチャワキ

食糧難の代替品ポーク缶が定着

 ポークランチョンミート(通称ポーク)は、沖縄の戦後の食糧難の時代に軍需物資として入ってきました。豚肉文化が定着し、豚肉、油脂に馴染んできたウチナーンチュの胃袋を素早くとらえ、豚肉の代用品として好んで食べられるようになりました。今日まで県民に好まれ、沖縄の食材として定着しています。

 ポークには香辛料が入っているため、豚だし、かつおだしの旨味と香り、また素材の持ち味を大切にする伝統的な琉球料理の味を打ち消すものだと思います。ポークはポークとしての美味しさを活かし、琉球料理と切り離したところでの食材として活用したいものです。