ヘイトスピーチ対策法から5年 罰則なく、規定「表面的」 白充弁護士に聞く


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ヘイトスピーチ対策法の問題点などについて語る白充弁護士=21日、那覇市の沖縄合同法律事務所

 人種や国籍、ジェンダーなど特定の属性に対する不当な差別的言動「ヘイトスピーチ」の解消に向けたヘイトスピーチ対策法の成立から24日で5年。在日朝鮮人3世で、ヘイトスピーチを浴びせられた経験がある沖縄弁護士会所属の白充(ペクチュン)弁護士(36)は同法成立を一定評価しながらも、罰則はなく、法の規定は「表面的」だと指摘。命が危機にさらされる「ヘイトクライムに発展しかねない」と警鐘を鳴らす。

 中学の頃、通っていた朝鮮学校近くのガードレールに「朝鮮バカ死ね」と書かれていた。2011年9月に司法試験に合格した際には、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に白さんに関するスレッドが立てられ、「これで日本人をレイプしても守ってくれるイムニダ」などと卑下する言葉が書き込まれた。17年末には白さんら県内の弁護士2人を標的にして961件の懲戒請求が沖縄弁護士会に送られた。背景には朝鮮学校への補助金停止に反対する日本弁護士連合会の声明があるとみられる。

 白さんは同時に、東村高江で、県外の機動隊員による「土人発言」やネット上の差別表現など「沖縄に対するヘイトスピーチも増してきている」と危機感を募らせる。同法は結局罰則がなく、ネット上の規定もない。守る対象が「本邦外出身者」に限られており、あらゆる意味で形骸化している結果だった。ヘイトスピーチを無くすために「あらゆる差別の撤廃を明文化した、罰則付きの法律に改めるべき」と主張する。

 海外では黒人差別が銃殺事件に発展、新型コロナウイルスの感染拡大の原因としてアジア系の人々への暴力事件も起きた。日本でもヘイトスピーチがマイノリティーへの脅迫や暴行などの犯罪「ヘイトクライム」につながりかねないと危惧する。

 一方、問題解決への希望は捨てていない。

 「祖父が生まれたのは植民地だった『朝鮮』。朝鮮人ということは自分にとって当たり前の一部分」。家族の歴史や故郷、音楽などに愛着を抱く。ただそれは「誇り」や「優越感」という特別な感情というよりは、シンプルに自分が存在することの証明だという。

 だからこそ問題解決の糸口も「シンプルだ」と考える。「一人一人、多様な人間の尊厳を大切にすることが大切だ。一緒に悩み、共感し、尊重し合えるため、問題の根源に何があるか意識してほしい」と語る。

 そのため、LGBTや被差別部落、ハンセン病、沖縄、朝鮮人についても問題はつながっていると見ている。ヘイトスピーチを無くすためにどうすべきか。自らの足元を見つめ直すという「シンプル」なことを示した。 (仲村良太)