【記者解説】新沖縄振興計画素案 県が「国への貢献」を強調した理由は?


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 県が新たな振興計画の素案に「国への貢献」を強く打ち出したのは、政府や国民が「引き続き沖縄振興は必要」と納得する根拠が薄れつつあるからだ。復帰から約50年にわたる振興策でインフラは整備され、沖縄は国内有数の観光地となった。だが、1人当たり県民所得は全国最下位が続き、新型コロナウイルスの影響で産業構造のもろさを露呈するなど、「自立的発展の基礎条件の整備は十分に進展したとは言えない」(玉城デニー知事)のが現状だ。

 県は素案で沖縄が日本の広大な排他的経済水域(EEZ)の維持に貢献しているとし、日本経済の発展における「アジアの玄関口」としての可能性を強調。施策展開に「社会」「経済」「環境」の枠組みを打ち出し、脱炭素社会の実現など国の施策を反映させた。

 一方、沖縄振興の本来の理念に対する政府や政治家の認識は希薄になっている。沖縄振興特別措置法の根拠は「沖縄の特殊事情の解消」であり、四つの特殊事情の一つは沖縄戦や戦後の米施政下という「歴史的事情」だ。これまで振興策の大半は、故山中貞則氏をはじめ戦中派の政治家が主導してきたが、戦後75年をへて中央政界に歴史を顧みる政治家は少ない。

 素案では、玉城知事が強く求めてきた「SACWO(サコワ)」の文言を削るなど、米軍基地や歴史的事情に関する記述を抑制的にした。歴史的背景を軽視する流れを追認するのか、県の姿勢が問われている。(梅田正覚)