prime

米ロ首脳会談 緊張緩和のきっかけに<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 16日にスイスのジュネーブで米ロ首脳会談が行われることになった。現在、米ロ関係は東西冷戦終結後、最悪の水準にある。来る米ロ首脳会談に関するロシアの方針について、5月末にクレムリン(ロシア大統領府)筋から興味深い情報が入ってきたので紹介する。

 「ロシア側としては、予期しない『不都合な』議題を持ち出してほしくない。ロシアにとっての『好都合な』議題とは、両国が合意できるであろう、軍縮に関する新しい交渉の可能性について、気候変動問題に関する協力について、中東、北朝鮮、イランとアフガニスタンに関する意見交換などがある」

 「『不都合な』議題は、まずは、ウクライナ問題。ウクライナ支援を強化している米国はミンスク交渉に参加しようとし、ウクライナのNATO加盟も推進している。同様に、ベラルーシ情勢の話も問題外だ。ロシアの国内問題、特に(反政権活動家の)ナワリヌイについて。ロシアが首脳会談で米国に望むのは、『国内問題への非干渉』の立場で合意することだが、米国側は『人権問題』を持ち出してこれを受け入れないだろう。この問題は、ブリンケンにとって最大のテーマであり、対中交渉とリンクするもので、特に重要である」

 「ロシアは米国による制裁の解除を望んでいる。外交関係も正常に戻したい。トランプ時代に凍結された資産も返してもらいたいし、領事館も再開させたい。しかし、米国は米国内におけるスパイ活動の再開やサイバー攻撃の継続などを理由に拒絶するだろう」

 「米ロ首脳会談が実現する前提としてロシア側は、バイデンが『プーチンに対してロシア国内と旧ソビエト圏における人権問題について何も指図をしないこと』を考えている。もちろん、プーチンを『殺人者』と認めたバイデンとの会談がハグやキスを伴った打ち解けたものになるはずはない」

 「クレムリンの外交政策担当者たちは、米国が9月のロシア下院選挙に干渉を行い、あからさまに反プーチン勢力を支持するだろうから、今後、米国との対立関係が長引くと予測している」

 「クレムリンの外交専門家は、首脳会談で何らかの成果があるとは期待しない。それはロシアの立場を直接、米大統領に主張する機会にすぎない。クレムリンのある高官は『合意が一つも成立しなくても、誰も失望しない』と言っている。両首脳は少なくとも、それぞれの意見を公表し、自分たちの『レッドライン』はここだと双方に明確に示すことだろう」

 ロシア政府からのメッセージは、バイデン新政権との間で、お互いに「この線を越えた場合には激しく反発する」という「レッドライン」を定め、新たなゲームのルールを確立したいということだ。客観的に見るとロシアは、帝国主義的な勢力均衡外交を展開しようとしている。

 米国は、中東問題に深入りし始めている。ロシアは、イランやシリアなどの友好国に対してのみならず、トルコ、イスラエル、サウジアラビアにも影響力を行使することができる。バイデン政権にとって死活的に重要な中東外交を展開するためにも、ロシアとの対抗のレベルを下げる必要がある。今回の米ロ首脳会談で、両国の緊張が緩和すると筆者は見ている。沖縄の安全保障環境にとっても米ロ関係が安定することは悪い話ではない。

(作家・元外務省主任分析官)