コロナ禍の精神医療は今 感染者受け入れ デイケアと両立も


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モニターで患者の状態を見る照屋努・東1病棟看護師長=5月25日、南風原町の精和病院

 南風原町の県立精和病院(親富祖勝己院長)は、統合失調症や認知症がありながら新型コロナウイルスが陽性となった患者も受け入れている。患者の状態を安定させながら治療する体制を整え治療に当たっている。院内のコロナ患者の対応だけでなく、精神科の非コロナ病棟の病床ひっ迫を避けるため、利用者の再発を防ぐことを目的に、これまで通りのデイケアにも力を入れる。従来の医療提供とコロナ患者のケア、双方のバランスを重視している。(嘉陽拓也)

■意思疎通が困難

 精和病院では、患者54人をほかの精神科病院に転院させてコロナ病棟を開設している。最大9人の受け入れ病床に対して看護師19人が輪番で対応する。5月末時点では、軽快退院が1人、軽症者3人と転院待ちの重症者1人が入院している。

 統合失調症や認知症のある患者の場合、手指の衛生を保つ周知が難しく、意思疎通も難しいケースがある。そのため、各部屋や廊下にモニターカメラを設置し、24時間体制で症状の悪化に気を配る。

 転院前に(ほかの病床から)隔離した保護室で療養した患者などの受け入れは計2件あった。患者の体の制限は最小限で対応しており、親富祖院長は「可能な限り抑制はせず、歩き回ることがあっても個室に鍵をかけない」と話す。消毒用アルコールは誤飲の危険性があるため、看護師はポシェットに入れて持ち歩くなど細かい対応も必要だ。また転倒する恐れがある患者は、看護師が近くで見守る必要がある。築35年を過ぎた同院では病室にのみ空調があり、廊下にはない。感染管理上、病室ドアを閉じた環境で防護具とマスク、フェースシールドを身につけると汗だくになるという。

 総合病院と比べ、医療機器は不足気味だ。酸素投与用の中央配管がなされておらず、酸素吸入などは鉄製の大きなボンベを病室に運び込み、工具を操作して設置するなど手間も多い。コロナ病棟内において、患者の酸素飽和度や心拍数などの異常を早期に検知する生体モニターは2台のみで、残り6台が搬入待ちだ。

コロナ病棟に設置した大型酸素ボンベを確認する職員(提供)

■デイケアの継続

 親富祖院長によると、精神疾患の患者の約4割が退院後1年以内に再入院するという。新型コロナの医療体制を維持するためにも、非コロナ病棟への再発再入院の予防も重要だ。

 昨年のコロナ流行時、精神科デイケアと訪問看護を縮小した結果、病状が不安定になる患者が増えたという。そのため、流行第3波からは、送迎車内の消毒を含む感染管理を徹底しながらデイケアを継続している。同院の岡智子感染管理認定看護師は「病棟やデイケアの各部署で患者と利用者に感染対策教育を行い習慣づいてきた」という。

■生活の質 維持

 精和病院のコロナ患者受け入れは5月末時点で累計54人。2月時点の受け入れ数28人は全国4番目の多さで、人口10万人当たりの精神科病院での受け入れ数は最多であったという。外来や救急など、院内での感染拡大のリスクは消えることはないが、対策チームを筆頭とした感染管理により、クラスター(感染者集団)などは起きていない。

 ただ、感染対策によって一般入院患者の作業療法やピクニックなどの院外活動が減ったことで、下半身の筋力の衰えによる転倒が増えているという。面会制限なども続いており、患者の生活の質を上げることも課題となっている。吉里昌美副院長兼看護部長は「外に出られないと誰でもストレスがかかる。患者さんが地域に戻れる個別的支援と感染対策を両立することは簡単ではないが、工夫を続けていく」と話した。