改正国民投票法と日朝関係 意思疎通で緊張緩和を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 憲法改正手続きに関する国民投票法改正案は11日の衆議院本会議で、自民、立憲民主、公明、国民民主各党などの賛成多数で可決された。この国民投票法の改正が北朝鮮に与える影響が心配だ。5月11日にこの法案が衆議院本会議で通過した後、北朝鮮が激しいく反発した。5月20日、北朝鮮政府が事実上運営するウエブサイト「ネナラ」(朝鮮語で“わが国”の意味)が「歴史の教訓を忘れてはならない」と題する国営・朝鮮中央通信社の論評を転載した。

 <日本が、「自衛隊」の存在を明記する憲法改正により本格的に取り組んでいる。先日、菅首相は「自衛隊」の地位を明らかにすべきだと言って、それに関する憲法改正論議を国会で進捗(しんちょく)させるのは当然なことであるという立場を明らかにした。時を同じくして、安倍前首相も「自衛隊」が憲法に違反するという論理に終止符を打ち、憲法の改正で「新しい時代」を開かなければならないと力説した。

 これは、内外の強い反対にもかかわらず、なんとしても憲法を改悪して侵略国家、戦争国家の面貌(めんぼう)を完全に整え、「大東亜共栄圏」の昔日の夢を実現しようとする危険極まりない策動である。日本の政客の憲法改悪策動は、単なる一国の内政に関する問題ではなく、国際的問題として世界の平和に対する正面切っての挑戦であり、人類に対する公然たる宣戦布告である>(5月20日「ネナラ」日本語版)。

 北朝鮮は菅義偉首相、安倍晋三前首相の発言を細かくウオッチしている。しかも憲法改正は、「大東亜共栄圏」の再建につながるという頓珍漢(とんちんかん)な見方をしている。現在の日本には「大東亜共栄圏」を再建する意志も能力もない。しかし、北朝鮮にはそのような日本の実態が見えていないようだ。

 北朝鮮は日本の現行憲法(とりわけ9条)を肯定的に評価している。その上で憲法改正が日本の軍国主義化につながるという見方を示している。

 <周知のごとく、日本の現行憲法は国連憲章と国際社会の要求に従って戦争と武力行使の永久放棄と戦闘力の保持禁止などの内容を規制している。日本は当然、憲法の核心事項をあくまで維持することで、平和を願う人類の念願に応えるべきであった。しかし、日本は敗北後、今日まで報復主義的再侵略の野望を一瞬も捨てず、日本は戦争を行えない国から戦争を行える国にするために必死になってあがいてきた。

 (中略)さらには最近、憲法改悪に邪魔となる遮断物を取り除くことができるようにそれを改悪した国民投票法改正案をついに衆院憲法審査会で通過させた。このような改憲策動が日本を危険な再侵略国家につくり、ひいてはこの惑星に取り返しのつかない惨禍をもたらすということは、火を見るより明らかである>

 日本と北朝鮮の間で誤解が生じている。情勢の悪化を防ぐために日本政府としてもできることがあるはずだ。

 まず、日本の北朝鮮の間で意思疎通ができていないことによる不必要な緊張を緩和する必要がある。そのためには、政府が平壌に常設の窓口を開設することが合理的だ。近未来に日本が北朝鮮の外交関係を樹立することは難しい。しかし、平壌に外交特権を持たない日本政府常設代表部を設置することは可能なはずだ。見返りに東京の朝鮮総連本部に朝鮮民主主義人民共和国常設代表部の地位を保障すればよい。 

(作家・元外務省主任分析官)