<琉球料理は沖縄の宝 安次富順子>4 長寿育む健康食品 消費量日本一「庶民の味」


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 沖縄は「豆腐の島」といわれるくらい昔からよく豆腐を食べてきました。百歳長寿者の三大好物が「豆腐、ゴーヤー、芋」という調査結果もあります。豆腐は安くて栄養価に富み気軽に使える健康食品で、消費量は日本一です。島豆腐は堅い、大きい、アチコーコー(あつあつ)が特徴とされています。堅いためにチャンプルー(島豆腐と季節野菜の炒め物)や豆腐よう(豆腐の発酵食品)に適しています。大きさは1丁(約1キロ)もあり、現在多くは半丁単位で売られています。このサイズの需要がある限り、「豆腐の島・沖縄」は健在だといえるでしょう。

誇らしき豆腐文化

 島豆腐は、木綿豆腐ですが本土の木綿豆腐より水分が5%位少ないので堅く、その分栄養価が高くなっています。食品成分表では本土の木綿豆腐と区別して、「沖縄豆腐」として取り扱われています。本土の木綿豆腐が水にさらした状態で売られているのに対し、島豆腐は水にさらさずそのままの状態で売られているので大豆の香りが残り、塩味が少しありおいしさを引き立てます。

多彩な調理法
 

ゴーヤーチャンプルー
ウカライリチー

 昔は家庭でもよく豆腐を作っていたので、石うすで大豆を挽いたり、凝固剤としての海水をくみに行った経験のある方もおられると思いますが、懐かしい思い出ではないでしょうか。また、昔は板の上に一箱5丁の豆腐がそのまま置かれ、それを切り分けて売られていました。その様子を柳田国男は、『海南小記』に「野武士の如き剛健なる豆腐である」と記しています。

 島豆腐は、汁物の具やンブシー、スーネー(白あえ)、また豆腐の上にスクガラスをのせた酒の肴(さかな)などのようにそのままの使い方もおいしいですが、油で炒めたり、揚げることで香りがつき美味しくなります。庶民料理の代表であるチャンプルーも豆腐をしっかり炒めて焼き色を付ける(アカヤチー)ことでおいしさが増します。揚げ豆腐は行事料理に欠かせないものです。

ゆし豆腐

 箱に流し入れる前のゆらゆらした状態のものを「ゆし豆腐」といいます。温めてそのまま、あるいはしょうゆやネギを加えて食べる家庭料理の一つです。豆腐の製造過程で取れるおからはウカライリチーや近年は菓子にも使われています。

 さらに豆腐を発酵させて作る「豆腐よう」は、沖縄の誇るべき食べ物です。豆腐を2~4日、風通しの良い場所で干し、少し粘り気が出るくらいになったら泡盛で洗い、麹と泡盛の液に漬け込んで発酵させます。発酵によりウニやチーズのようなうま味とまろやかな食感が生まれ、それに泡盛の香りが加わり、絶妙な味を生み出します。豆腐ようは中国の「腐乳(ふうるう)」が伝来したものと思われます。中国や台湾の「腐乳」は漬物のようにして食べるためか塩分が強く、沖縄の豆腐ようとは大きな違いがあります。

豆腐よう

チャンプルーには不可欠

 チャンプルーについては、中国あたりから入ってきた料理法であろうということは大方の見方です。『東恩納寛惇全集8文化論考』にチャンプルーは「炒腐児」で中国の総菜料理であると出てきます。この腐は豆腐を指しますので豆腐の入った料理と解釈してよいと思います。

 尚順の『松山王子遺稿』に、チャンプルーを作る時、普通の豆腐を使う代わりに、十分に熟成させたイタミルクジュウ(豆腐を切り分けて2~4日陰干しして発酵させたもの)を使うと世界一の珍味といえるものになると出てきます。また、国立国語研究所編『沖縄語辞典』には豆腐、野菜の炒めもの、中国からの借用語らしいと記されています。

 このように、チャンプルーには必ず豆腐が使われています。ところがインドネシア語で「チャンプルー」はミックスする、つまり混ぜ合わせるという意味を持っているとのことが伝わり、近年「チャンプルー文化」という言葉が使われ始めました。

 それまでは、チャンプルーは料理用語のみに使われていましたが、料理以外の混ぜ合わせたものにもチャンプルーという語が使われるようになってしまいました。その影響もあり、豆腐を使わない炒め物(タシヤー)にもチャンプルーという人が増えてきました。

 チャンプルーは沖縄を代表する手軽にできる家庭料理です。沖縄の誇らしき堅い島豆腐を使うからこそ、チャンプルーが存在します。昔から受け継がれた「チャンプルーは必ず豆腐が入る」を大切にしたいものです。

 大豆を使った本来の豆腐とは別に、落花生と芋くずで練り上げて豆腐のように仕上げたジーマーミ豆腐があります。滑らかな口当たりと、独特の風味が深みのある味わいがあります。落花生は貴重品であったことから、行事の折に作られました。近年は既成品が手に入りますが、落花生がアレルギー食品なので、注意が必要です。
 (琉球料理保存協会理事長)


 安次富順子(あしとみ・じゅんこ)

 那覇高校、女子栄養大学家政学部卒。1966年~2016年まで新島料理学院、沖縄調理師専門学校(校長)勤務。沖縄伝統ブクブクー茶保存会会長。主な著書に「ブクブクー茶」「琉球王朝の料理と食文化」「琉球菓子」など。


ウチャワキ

アチコーコー 手に入りにくく

 本来、豆腐は食品衛生法では水さらしを義務付けていますが、沖縄は復帰の時の特例で水さらしをしないアチコーコーの豆腐の販売が許されて来ました。ところが今年の6月1日から「HACCP」の衛生管理により55度を下回った場合は3時間以内に消費するか冷蔵庫での保存が義務付けられました。水さらしをしないアチコーコーの島豆腐の販売時間が限られ、手に入りにくくなります。

  豆腐製造や販売の方たちは大変だと思いますが、この沖縄のおいしい島豆腐を残す努力をお願いしたいと思います。また、消費者である私たちもアチコーコーの島豆腐の需要を増やし、守る努力をしたいと思います。