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米ロ首脳会談 核戦争回避へ意義大きい<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 スイスのジュネーブで、6月16日、バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領が会談した。この首脳会談により、東西冷戦終結後、最悪の状態だった米ロ関係は、改善に向けて動き始めることになった。今次首脳会談の最大の成果は、「戦略的安定」についての共同声明が発表されたことだ。共同声明全文の日本語訳は以下の通りだ。

 <私たち、米国大統領ジョー・バイデンとロシア大統領ウラジーミル・プーチンは両国は緊張が高まった状況でも共通の目標に向かって成果を上げられるということを確認した。その共通の目標とは、戦略的な領域で不測の事態が起きにくいようにし、軍事衝突、核戦争の脅威を減らすということだ。/新戦略兵器削減条約(新START)を(2月に5年間)延長できたのは、私たちが核兵器の管理に尽力していく姿勢を示した一例だ。きょう、私たちは核戦争には勝者はなく、絶対に始めてはいけないという原則を再確認した。/この目標に基づき、両国は近く戦略的安定への対話を始める予定だ。よく考えられた強固なものになるだろう。この対話を通じ、将来の兵器管理、リスク削減策についての基盤をつくっていきたい>(6月17日「日本経済新聞」電子版)。

 「戦略的な領域で不測の事態が起きにくいようにし、軍事衝突、核戦争の脅威を減らす」という目標に両首脳が合意したことには大きな意義がある。この共同声明は、ロシア側の意向をより強く反映する形でまとめられている。なぜならプーチン大統領が以前から強調している「私たちは核戦争には勝者はなく、絶対に始めてはいけないという原則」という文言が入っているからだ。

 米ロは現在、相互に大使が不在という外交上、不正常な状態にあるが、これについても正常化する見通しだ。ロシアのアントノフ大使は6月中にワシントンに戻る。

 バイデン氏は記者会見で、<ロシアと長い国境を接する中国が台頭するいま、プーチン氏が最も望まないのは米国との冷戦だろう。(プーチン氏を信頼できるかどうかについて)これは信頼ではなく、自己利益の問題だ>(前掲、「日本経済新聞」)と述べた。

 中国に対する影響を考えれば、バイデン氏の認識にプーチン氏が明示的に同意することはないと思う。重要なのは、バイデン氏がロシアの国益をよく理解していることだ。複雑化する中東情勢に巻き込まれ、中国との対立も簡単に緩和する見通しが立たない状況で、米国はロシアとの緊張を緩和させることに利益を見いだしている。プーチン氏としても、バイデン氏とは、トランプ前大統領とよりも取引が容易と認識したと思われる。

 米ロの緊張が緩和することは、沖縄の安全保障環境にとっても好ましい。米中間でも「私たちは核戦争には勝者はなく、絶対に始めてはいけないという原則」を確認することが重要と思う。米中核戦争のリスクを除去することが沖縄にとっても死活的に重要だ。

(作家・元外務省主任分析官)