骨や動植物…かごいっぱいから広がる「脱コスパ教育」 沖縄大学長が新著


社会
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新著「ものが語る教室 ジュゴンの骨からプラスチックへ」を出版した盛口満さん。周囲の棚は骨などの標本で埋まる=那覇市の沖縄大学

 沖縄大学学長の盛口満さんが5月、新著「ものが語る教室 ジュゴンの骨からプラスチックへ」(岩波書店)を出版した。理科教育を専門とし、昆虫、植物、キノコから骨、石まであらゆる自然物に関する書籍を何十冊も出してきたが、今回はひと味違う。「今までは教育を切り口に生物を語ってきたが、今回は生物を切り口に教育を語った」。今の時代に自分ができること、語れることを記したという。

 盛口さんの研究室には骨や動植物など、あらゆる標本が山のようにある。学長職にある今も、これらをかごいっぱいに詰めて講義に向かう。

 初めての講義では自分を愛称の「ゲッチョ」と呼ぶよう呼び掛ける。権威や強制をみじんも感じさせない雰囲気の中で、盛口さんはこれらの「物」を入り口に、学生と対話をしながら互いの経験や知っていること、関連があることを引き出し、論理的な連想ゲームのように発展させていく。その内容は生物の生態、進化から物理学や化学、その生き物の暮らし方、人間との関わり、沖縄の文化や歴史と、どこまでも幅広い。

 学生たちは知らないことも含めて安心して発言し、他者の発言に触発されるように対話が盛り上がる。そしてまた「物」に立ち戻ることで、学生たちの思い込みや先入観といった「魔法」は解かれ、驚きや新たな関心が広がっていく。

 「一問一答で一つの答えを求めるのではない。他の人に刺激されて違うことが見えてくるのが楽しい」。書籍はそんな豊かな授業の様子が随所で再現される。

 一方で現代は学生も「コスパ」との言葉を多用し、学びに「最短距離」を求めようとするという。「コスパ」はコストパフォーマンスの略で、成果と、それを得るための労力や費用の対比を指す。

 教員と学生・生徒、学生・生徒間も対等な関係性がない教室で、自由な発想や発言を伸ばせない場面も各地で散見される。

 そんな時代に、子どもたちの中に残る学びとは何か、生きるとは何か。

 新著では新人の教員として着任した中高一貫校「自由の森学園」(埼玉県)での日々を振り返り、今は社会人同士として付き合う教え子や、生き様を見せてくれた化学教師だった父も描く。そんな中に、盛口さんが模索し、見いだした「答え」が浮かび上がる。