国際連合の役目とは 続く弾圧、民主化危機 「正義の使者」姿なく失望<アメリカのつくられ方、そして今>


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 国際紛争や戦争を解決する役割を担い、世界の平和を実現するための組織だと思っていた国際連合。国連憲章には国際平和と安全を維持するとうたい、国際的な平和貢献に誰もが期待を抱いてきた。しかし戦後、およそ17の戦争や紛争を止められず、昨今は民主化運動に牙を向ける大国の人権蹂躙(じゅうりん)や軍政権による弾圧に対して、何の解決策も示すことができない国連の微力さに憤りを感じる。

 香港では、国家安全維持法違反容疑で多数の民主派活動家が逮捕された。タイの民主化デモも軍事政権と闘っていたが、いつのまにか軍に制圧された。ミャンマー軍政権のクーデターでは、軍による攻撃で民主化を叫ぶ多くの民間人が犠牲になった。混迷するミャンマー、香港、タイの暴力による締め付けの映像を見るたびに心が痛く、国連に抱いていた「正義の使者」という姿は幻想であったと失望する。

 国連を無能にしているのは一体何なのか。それは国連加盟国を事実上掌握できる、安全保障理事会の常任理事国、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアの5カ国による、自国にとって都合の悪い決定に一方的に反対できる「拒否権」である。ミャンマー軍への制裁に対しては拒否権を持つ中国が難色を示した。中国とロシアはミャンマー軍に武器を輸出し、支援しているとされる。

 今も続くシリア内戦ではアサド政権がロシアの支援を受け、反体制派はアメリカの後ろ盾で攻撃し合い、内戦は泥沼化した。武力衝突が続き、常任理事国である大国の覇権構造が浮き彫りとなった。

 イスラエルのパレスチナ侵攻では米国がイスラエルを擁護する。ガザではイスラエルの攻撃で亡くなった243人のうち66人が子供だった。

 さらには中国による新疆ウイグル自治区やチベット自治区への人権侵害についても対策は何も見えてこない。

 昨年、国連は創設75周年を迎えた。世界の紛争が解決しないのは、常任理事国の特権のため機能不全を起こしていることが要因として、加盟国のいくつかの国がこの5カ国の拒否権は不公平で民主主義的でないと、国連の改革を訴える動きもあった。だが、この5カ国が拒否権を手放すことはまずない。ある政治学者は、国連の改革はお金と時間の無駄であるとし、国連を「United Nations」でなく「United Nonsense」(ナンセンス)と皮肉を込めて言う。

 では、何のための安全保障理事会なのか。残念ながら国連の平和維持の役割には限界があり、単に情報を提示し話し合う場にすぎないのである。

 日本からの客人を案内して何度も訪れたニューヨーク市にある国連本部。18エーカーの敷地には39階建ての事務局ビルをはじめ、会議場など4つのビルが建つ。その周りには加盟193カ国の国旗がなびいている。その複合施設を仰ぎ見ると、先の大戦で勝利した連合国が世界を支配するための機関にすぎないのではと思ってしまう。

 (鈴木多美子バージニア通信員)