「解除厳しい」県の要請前日に政府から意見 県専門家は「まん延防止移行」<検証 緊急事態宣言延長>1


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緊急事態宣言延長を受け、記者会見で引き続き感染症予防対策を呼び掛ける玉城デニー知事=8日夜、県庁(代表撮影)

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言再延長が決まった。県はまん延防止等重点措置への移行を政府に要請したが、政府の基本的対処方針分科会は新規陽性者の高止まりや医療の逼迫(ひっぱく)などから延長を決めた。県と国の判断が分かれ、「県の見通しが甘い」「政府が恣意(しい)的に判断した」など、さまざまな見方が上がる。宣言の延長決定までの経過を振り返り検証する。

 

会見から数時間 事態一変

 

 5月23日に始まった新型コロナウイルスの緊急事態宣言の期限まで残り4日と迫った今月7日、報道各社の取材に応じた玉城デニー知事は力を込めた。「(新規感染の)減少傾向が続いている時期に一時、緊急事態宣言を解除し、まん延防止等重点措置に移行することで、さらに感染を抑えていきたい」

 この記者会見の直後、玉城知事は政府に対して、宣言を解除し、重点措置に移行するよう求めた。

 だが、わずか数時間後に事態は一変する。政府は7日夜、沖縄の宣言を延長する検討に入り、県の要請を受け入れることはなかった。

 東京都への再発令と共に、沖縄の緊急事態宣言が8月22日まで延長されることが8日、正式に決定した。規制緩和への県民の期待感は落胆に変わり、玉城県政や政府への不信も噴出した。県と国の判断はなぜ分かれたのか。

 県が重点措置への移行要請にかじを切った背景には、医療関係者らによる県の専門家会議の意見があった。

 5日の会合で、一部の委員からは「宣言は解除できない。5月の連休前と状況が変わっていない」など、新規感染の下げ止まりに懸念を示す意見も上がっていたという。

 しかし、病床に比較的余裕が出ていることや、ワクチンの接種状況を踏まえ、地域ごとに制限内容を判断できる重点措置への移行がよいという意見にまとまった。その上で「次に流行した場合に迅速に宣言をかけるという方がいい」との意見が多数を占めた。

 再拡大の指標を「1週間平均で1日80人、1週間で560人程度」と設定し、感染者数が増加した場合は再度、宣言への移行を求める方針で一致した。

 専門家会議の藤田次郎座長は「県はニュートラル(中立)で、専門家会議のメンバーに任せてくれている」と説明。宣言を解除し重点措置に移行するという意見は、結論ありきではなく、専門家会議が主体性を持って議論した結果だった。

 その意見を受け、県は6日に経済団体の意見を聴取し、7日の対策本部会議で重点措置への移行を政府に求めることを決めた。

 ただ、県関係者によると、6日の段階で政府から「数値からすると解除は厳しい」との意見が県に寄せられていたという。 

 

アドバイザリーボードと分科会で分かれた判断

 

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言延長のニュースが報じられた7日夜、県幹部は「政府から厳しい見通しはあったが、専門家の意見を受けて経済界や県民の思いをくみ取りたいと思って、重点措置への移行要請を決めた」と明かした。

 感染状況が一定程度、改善する中、長期間にわたる経済界や県民の我慢は限界に達しつつあった。まん延防止等重点措置への移行要請を決定するまでの間、専門家や経済界の意見を検討し、県として難しい判断が迫られていた。

 一方、政府は沖縄の対策を議論するために、7日に厚生労働省に新型コロナ対策を助言する有識者会議「アドバイザリーボード」、8日に基本的対処方針を議論する政府分科会を開き、議論した。アドバイザリーボードの議論では、沖縄の感染状況が改善しており、「延長してもこれ以上の劇的な改善が見込めない」という想定から延長を推す意見は出なかった。

 だが、8日の政府分科会はアドバイザリーボードの意見に反し、沖縄の緊急事態宣言を延長すると判断した。分科会の尾身茂会長は記者会見で「沖縄は知事も専門家もまん防(重点措置)ということで、非常に悩んだ」と明かした。その上で「(宣言)解除は医療の逼迫(ひっぱく)というものを一義的に考える」と述べ、分科会として医療提供体制の逼迫を最重要視し、宣言延長を判断したと説明した。

 沖縄の宣言延長を巡り、菅義偉首相は県内の政治関係者に連絡し「経済のことを考えると宣言を解除したかったが、専門家の意見で延長が決まった」と説明したという。分科会の議論が政府判断のたたき台となるため、政府はその意見に沿う形で宣言を延長した。

 

県は前倒し解除に標準

 

 一方、延長期間は専門家らが示す「3~4週間」という目安を大きく超え、6週間に。感染者数が増加傾向にあり、五輪で人出の増加が見込まれる東京都と終了する時期が重なり「オリンピックの道連れ」(県幹部)との指摘も上がっている。

 県は感染者数をより下げることで、前倒し解除を目指す。解除の目安は新規感染者数が1週間に365人以下、対策を緩和する目安は同219人以下との見解を示している。玉城デニー知事は「7月いっぱいで達成できれば非常にいい」と目標を掲げ、対策を進めていく考えだ。 

(池田哲平)