「戦争は大切なものを奪う」 校長先生が平和学習 考えさせる授業を実践


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大切なものを記したスクリーンを見せて、児童に沖縄戦について伝える伊良部孝校長(右)=6月22日、南城市立玉城小学校

 【南城】「戦争は大切なものを奪う」―。慰霊の日の前日の6月22日、南城市立玉城小学校(伊良部孝校長)では、校長自らが教壇に立ち平和学習をした。伊良部校長は2008年から3年間、糸満市摩文仁の平和祈念資料館に勤めた経験があり、沖縄戦当時の写真などを使いながら戦争の悲惨さや平和の尊さを児童に伝えた。

 校長による平和学習は4年2組(椋野小夏教諭)の児童25人対象に行われた。開始当初、伊良部校長は授業の内容を伝えずに「自分が大切にしたいものを書いてください」と児童に告げる。児童はノートと黒板に「家族」や「食べ物」「友達」「学校」などの言葉を書き記した。

 伊良部校長はその後、児童に黒板のそばにあるスクリーンに目を向けさせる。「自由」「希望」「夢」「おかあさん」などの言葉がちりばめられた中央にはAと書かれたシルエットの子どもが映し出された。伊良部校長は「A君はここに書かれた言葉がすべて奪われた。なぜでしょうか」と問い掛ける。児童からは「いじめ」や「けんか」「病気」などの声が上がった。すると伊良部校長は「戦争で奪われたのです」と伝え、児童は驚きの声を漏らした。「沖縄戦のような戦争が起きれば、皆さんの大切なものは奪われるかもしれない」。伊良部校長は力強く伝えた。

 次に映し出されたのはBと書かれた少女のシルエット。「B子さんは亡くなってからも奪われたものがあります。何だと思いますか」と問い掛ける。首を傾けながら考え込む児童に対して、伊良部校長は「名前です」と答え、平和の礎(いしじ)に「〇〇の長女」などと刻まれた写真を見せた。「B子さんの名前を知っている人はみんな(沖縄戦で)死んでしまった。名前はその人が生きていた証し。お父さんとお母さんが付けてくれた名前も戦争は奪ってしまうのです」

 授業の最後には児童一人一人に「戦争」に対する考えを板書させた。黒板には「残酷なもの」「大事な人々の命を奪うもの」「やっていはいけないこと」などの言葉が並んだ。伊良部校長は児童に向けて「戦争や平和について、少しでも心の中にとどめて、考えてほしい」と話した。授業を受けた荒瀬涼介さん(10)は「戦争は恐ろしくて、絶対に経験したくないと思った。平和についてもっと考えたい」と感想を述べた。

 教室には他のクラスの教員らも集まり、熱心に授業に見入った。伊良部校長は「沖縄戦体験者が減少し、コロナ禍の影響で体験者から直接聞く機会が失われている。体験していない世代や教員がどう伝えていくか、これまでの平和教育のあり方を変えないといけない」と語った。