「ブラック校則問題」生徒自ら考える、決める、守る<SDGsで考える 沖縄のモンダイ>


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 国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を推進し、地域や社会をよくしようとする企業や自治体の活動が活発化してきた。一方、県内では多くの課題がいまだ解決されていない。SDGsの理念にある「誰一人取り残さない」「持続可能な未来」の実現へ必要なものは何か。連載企画「SDGsで考える 沖縄のモンダイ」は、記者が現場を歩いて現状を報告し、沖縄大学地域研究所と大学コンソーシアム沖縄の協力で、学識者に解決への道筋を提言してもらう。4回目は「ブラック」との批判が出ている校則の問題について考える。

 糸満市立西崎中学校は2月、生徒が自ら考えた校則の改定案を学校運営協議会に提案した。制服のリボンやネクタイは着用してもしなくてもいい、暑いときは腕まくりしてもいい、男子がスカートをはいてもいいなど、主に身なりに関する校則を変えた。

 新しい校則になって学校はどう変わったのか。7月9日に再び同校を訪ねた。長かった今年の梅雨は明けていた。肌を刺すような日差しと、しめった空気がへばりつくような蒸し暑さ。沖縄の夏が始まり、改正校則の力が現れる時期だ。

 出迎えてくれたのは、新しい校則を提案し、運営協議会の大人たちと議論を交わした生徒会の3人だ。会長の中原悠太さん(14)=3年、副会長の玉城春陽(はるひ)さん(14)=2年=と安谷屋庚生(こうせい)さん(13)=2年。3人ともネクタイ、リボンを着用していない。玉城さんは、昨年度なら先生に注意されていた腕まくりをしている。

自らの手で校則を変えた経験を話す西崎中学校の(右から)玉城春陽さん、中原悠太さん、安谷屋庚生さん=9日、糸満市西崎の同校

 「だいぶ過ごしやすくなったと思います。リボンもネクタイも付けない人が多くなりました」。下校途中の生徒に目を向けると、玉城さんの言葉通りだった。禁止されていた髪型ツーブロックも過度な刈り上げでない限り認められ、軽いツーブロックにする生徒も出ているという。「校則が緩くなったからといって、学校が荒れることはありませんでした。自分たちで決めたルールだから、守ろうという意識が強くなりました」と、中原さんは言う。

 2月の校則改定時、最もこだわったのは「男子のスカート解禁」だったという。同校は女子のズボンを認めていたが、男子のスカートは「好奇の目にさらされる」などの懸念から認められていなかった。

 玉城さんは「実は提案する前、これだけはなんとしてでも通そうと話し合っていたんです」と明かした。反対の意見が出ても「人権の問題だ」と強く押し通す予定だった。「LGBTQを否定する地域だったら、地域の方を変えるつもりでいた」と言う。中原さんは「実際にスカートをはかなくても、校則にあることで心の支えになる」と熱弁し、理解を得た。提案に参加できなかった書記の中島祐月さん(15)=3年=の思いを言葉に乗せていた。

 新年度になり、1年生も入学してきた。玉城さんは女子のズボン着用が増えたことに気付いた。「私も小学生のころはズボンばかりだったので、スカートは違和感がありました。今の1年生は女子がズボンでも、それが自然な感じで受け入れられています」。多様性を受け入れる校則は、入学前のオリエンテーションなどで周知され、地域に浸透していた。

 自分たちのルールを自分たちで決める―。当たり前だが学校では難しい経験をした生徒ら。中原さんは「意見を出し、話し合うことで良い方向に変えることができた。一人一人が意見を言わないと、思いは伝わらない」と話す。議論を経て合意を形成し、前へ進むという民主主義の根幹を感じ取っていた。

 3人にブラック校則について聞いてみた。安谷屋さんは「校則は命令の塊。生徒を守るため、学校の評判を落とさないためと、大人の理想で縛っていくからブラック校則が生まれると思います」と答えた。

「眉ぞり禁止」いじめ原因に

 西崎中学校のように取り組める学校はまだ少数だ。存在理由が不明な校則に苦しむ生徒は、今も多い。

 県内の公立中学校3年の男子生徒は「眉ぞり禁止」という校則がきっかけとなり、いじめ被害にあった。生徒の母親が取材に答えてくれた。

 

眉ぞりを禁止する県立高校の校則

 男子生徒は2年の時、眉毛がつながっていることでからかわれるようになり、禁止と分かりつつ、つながっている部分をそって整えた。母親も気付かないくらいの整え方だったという。

 ところが、学校の先生が眉をそっていることに気付いた。学校の対応は注意だけにとどまらなかった。部活動の大会に出られないかもしれないと言い出し、「顧問会」に対応が諮られることになった。結局、からかわれていたという事情がくまれ、出場はできたものの、部活動に迷惑を掛けたということで、生徒は部員に謝罪した。

 この出来事をきっかけに、生徒は集団で無視されるようになった。学校側は無視をしている生徒の言い分を聞き、無視する理由を生徒に説明した。生徒は無視していた生徒に謝罪したが、無視をしている側からの謝罪はなかったという。その後、話し掛けると走って逃げる、大声で悪口を叫ばれるなど、いじめはエスカレートした。練習中に何か発言すると、「校則を破っているお前に言われたくない」と言われたこともあった。生徒は「理由があったらいじめていいのか」と、悔しそうにつぶやいたという。

 同校は眉ぞりのほか、ポニーテール禁止や編み込み禁止など見た目を制限する校則が多い。スカートの長さを測るため、女子生徒が膝立ちで並んで教師のチェックを待つ光景も見られるという。

 母親は同じ地区の隣の中学出身。「私が通っていた時より厳しくなっている。はやり物を抑えているうちにどんどん厳しくなったのだろう」と、厳しすぎる校則に疑問を持つ。「学校は見た目で判断する人を育てたいのか。下の子もいるので、このままにしておくわけにはいかない。人権の視点で考えたい」と話した。

 琉球新報は6月、県立高校の生徒指導に関する校則を情報公開制度で入手し、本紙ホームページで公開した。高校の校則にも「眉ぞり禁止」の項目はある。人権侵害が指摘される「地毛証明」や、「キャンプ禁止」という謎の校則もあった。情報公開のため、各校の校則を取り寄せた県教育委員会の担当者は「まとめて校則を見るのは私も初めてだ。変えないといけないと思う校則もあった」と感想を述べた。

 文部科学省は今年、「ブラック校則」の見直しを求める通知を都道府県教委に出した。県教委も昨年、同様の通知を各高校に送っている。県教委担当者は「今年こそ、校則見直し元年にしたい」と決意を語った。

 (稲福政俊)
 

子どもの権利条約 独立した人格、尊厳規定

 18歳未満の全ての子どもの基本的人権を尊重することを目指す国際条約。1989年の国連総会で採択され、90年に発効した。日本は94年に批准した。前文と本文54条で構成される。生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を四つの柱とし、包括的な権利を実現・確保するために必要となる具体的な事項を規定した。子どもを保護対象でなく、独立した人格と尊厳を持つ権利主体と位置付けている。締約国は条約の履行状況の審査を受ける義務がある。

 

子どもも決定者に
 島袋純氏(琉球大学 教育学部教授)

 

 SDGsは環境に関することが話題になりがちだが、本文を読むと、すべての人々の人権を保障しようという考えが通底している。国際的な人権の基準があり、その基準を実現することが各国に求められている。

 子どもに関しては「子どもの権利条約」があり、日本は1994年に批准している。この条約では「参加する権利」が尊重されている。子ども自身のことを決める場に、子ども自身が共同決定者として参加することが重要だ。欧州の国々では最終決定の場に子ども代表を送ることができる。

 例えば職員会議で校則を決めるとする。その会議には子ども代表が入って一緒に審議し、採決に参加する必要がある。オブザーバーとして意見を表明するだけでは不十分だ。子どもを共同決定者として位置付けることに重要な意味がある。

 指導だからといって、子ども抜きに校則を決めるのは実質的に権利の侵害に当たる。生徒会の自治も侵害している。決まったルールがいいか悪いかの問題ではない。勝手にルールを決めてしまうこと自体がだめだ。

 どんな校則が人権侵害なのか。日本で人権を制限できるのは、公共の利益に反する時だけだ。公共の利益に反するという立証は、権利を抑制する側がしないといけない。単に教育上好ましくないというだけではだめで、公共にとって、どのようなよくない結果が出るのか、個別具体的に説明しないといけない。「その方が本人のためになる」という理由も不可だ。

 つまり、権利の侵害を正当化するのはとても難しい。子どもには大人と同じ権利がある。大人にやってはいけないことは、子どもにもやってはいけない。

「権利保障」の視点を

 「眉ぞり禁止」の校則は誰かを傷つけている。太い眉やつながった眉をコンプレックスに感じる子どもは多いから、禁止されると大きなストレスになるのは容易に想像が付く。「事前に相談があれば認める」という学校もあるが、自分のコンプレックスを誰かに打ち明けるのは大人でも難しい。眉ぞり禁止の校則についてははっきり言いたい。ない方がいい。

 日本も批准する子どもの権利条約は、子どもの生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を保障する。生徒を縛る視点ではなく、子どもの権利を保障する視点で校則を見直してみてはどうだろうか。そうすれば、「命令の塊」(西崎中の生徒)ではない校則ができるはずだ。

(稲福政俊)

 SDGs(持続可能な開発目標)は2015年、国連サミットで採択された国際社会の共通目標。環境問題や貧困などの人権問題を解決しながら経済も発展させて持続可能な未来を創ろうと、世界中で取り組みが進められている。