三線の心、世界一つに 沖縄市の喜瀬さん 海外での指導、本に


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文化庁文化交流使の活動成果と子弟らへのメッセージも込めた冊子を発行した喜瀬慎仁さん=9日、沖縄市

 【沖縄】文化庁の文化交流使として、琉球古典音楽では県内から初めて5カ国に派遣された野村流古典音楽保存会と湛水流保存会師範の喜瀬慎仁さん(78)=沖縄市桃原=が、このほど「世界を結ぶ三線の心」の冊子を発行した。交流活動の貴重な総集編としてばかりでなく、世界にも誇れる古典音楽の神髄と文化価値を子弟らに伝える渾身(こんしん)のメッセージであり、三線人生50年の自分史にもなっている。

 文化交流使、5ヵ国で活動

 喜瀬さんは県立芸大教授を務めたほか、国指定重要無形文化財組踊保持者(総合認定、歌三線の地謡)、県指定無形文化財「沖縄伝統野村流」保持者。海外派遣は27カ国に及ぶ。1994年に野村流全曲のCD12枚(204曲)を制作、2015年には県文化功労者の表彰を受けた。現在は生涯学習施設のペアーレ楽園・幸寿大学校の学長も務める。

 2009年、文化庁長官に文化交流使に任命された。同年8月のフィリピンを皮切りに中国、フランス、ドイツ、イギリスの5カ国を半年かけて訪問、中国とフランスには2カ月半も滞在した。その間、実演26回、実技指導76回、講義5回、ワークショップ17回など展開。特に沖縄と関係の深い中国・福建師範大学では約60時間にも及ぶ授業、さらに地方演芸の閩劇(ぴんげき)と共演し、現地メディアにも大きく紹介された。

 当時、現地リポートとして本紙などに寄稿した。古典だけではなく「安里屋ゆんた」「童神」「花」など県民に親しまれている民謡などを披露。カチャーシーも取り入れるなど多彩な沖縄の芸能文化に「演奏会場は言葉の壁を超えて一体となって盛り上がった」と振り返る。さらに各国では“一人旅”の喜瀬さんを県出身者らが献身的にサポートし、フランスでは本紙の大城洋子通信員に「大変お世話になり、ウチナーンチュの強い絆を感じた」と感謝した。

 冊子は350部を発行。各国での多彩な交流の詳細な成果と新聞資料、写真などを収録。「世界に沖縄文化を発信することができた」と言葉を弾ませた。特に講演では、古典音楽の背景としてニライカナイ信仰、イチャリバチョーデー、チャンプルー文化、ゆいまーる精神、命どぅ宝の五つのキーワードを貫く平和の心を力説したと言う。

 子弟や関係者らに冊子を贈った喜瀬さんは「若手がさらに世界への発信の担い手に成長してほしい。冊子がその一助になればうれしい」と期待を膨らませていた。
 (岸本健通信員)