地中からダンプ6台分の廃棄物、飼いネコを捨てに来る人も…危うい共生<世界自然遺産 宝の森の今>2


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林道付近から大量に見つかった不法投棄された廃棄物=2019年、国頭村内(国頭村提供)

 希少な動物が命を育む沖縄島北部のやんばるの森。世界自然遺産登録前の7日、やんばるエコツーリズム研究所代表の中根忍さん(64)は、国頭村の伊部岳で、生い茂る樹木に目をやり「アカメガシワは薬になる」「アデクの木はおのやくわに使われた」と述べた。森の動植物と地域住民の生活が密接に関わっていたことを説明する。

 「やんばるの人々は、自然を保全しつつ利用してきた。共生の歴史がある」という。琉球王朝時代、やんばるの森は王府の監督の下、集落が共同で森林を保護・利用してきた杣山(そまやま)制度で管理された。木々の中からアーチ状の炭焼き窯も姿を見せる。人々の営みの痕跡が多く残っている。

 だが、近年は人と自然の共生が危ぶまれている事例も相次ぐ。東村高江区の仲嶺久美子区長は「やんばるはごみ捨て場ではない」と語気を強める。「村内の県道沿いやダムの近くでたびたび廃棄物を目撃する。以前はネコなどペットが捨てられ、区民で飼ったこともある」。ネコやイヌが野生化すると、希少な動植物を襲う。「ここ数カ月、以前に比べヤンバルクイナの鳴き声が聞こえない。野生化したペットがまた流入しているのかもしれない」と不安を口にする。

 国頭村は相次ぐ不法投棄に頭を悩ませている。今年5月、長尾橋の下にチラシなどが大量に捨てられた。7月には大国林道付近の斜面から松葉づえや土のう袋などが見つかった。

 2019年末には宇嘉林道付近の地中からダンプ6台分の廃棄物が見つかった。当時を知る村職員は「掘っても掘ってもごみが出てきた。分別作業が本当に大変だった」と振り返る。全て回収するのに3カ月かかったという。村が村森林組合に委託した不法投棄の回収事業は3年間で、総額120万円近くになった。

 地域住民らが主体となって林道パトロールも実施している。密猟や外来種、不法投棄などを警戒している。村も林道の見回り頻度を増やしているが、林道が複雑に入り組んだ広大な森で、全てを警戒するのは困難だ。国頭村観光協会の比嘉明男会長は「音が聞こえないドローンを使って、空からも監視するしかない」と提案する。

 中根さんは「生態系を破壊する不法投棄は絶対にあってはならない」と言葉に力を込める。「県民が世界遺産を守っていく意識を高めなければならない。これからが勝負だ」
 

(長嶺晃太朗)