「山に降った雨が森の木を育て、養分を含んだ水が川を流れて海に注ぎ込む。西表の自然は全てつながっているんだ」。竹富町西表島で長年、自然観察ガイドとして活動する森本孝房さん(64)は島の特徴を説明した。島の周囲は約130キロ。森や滝、川やマングローブ林、人里など、さまざまな環境が育まれており、多様な生物たちが西表島の最大の魅力だ。
島の生物多様性を象徴するのが、世界中で西表だけに生息する国の特別天然記念物イリオモテヤマネコの存在だ。
環境省西表自然保護官事務所の竹中康進自然保護官によると、世界で一番、生息域が小さなネコ科の動物がイリオモテヤマネコだ。他地域のヤマネコとは違い小型のほ乳類だけではなく、カエル類や昆虫なども積極的に餌とする。
豊かな森で育った緑を小さな生き物たちが食べる。その小さな生き物たちを、今度はより大きな生き物が餌にする―。西表島で食物連鎖の上位に立つイリオモテヤマネコの命は、島の多様な種の生き物たちが支えている。
竹中自然保護官は「西表は島全体が大きな生態系だ。島の環境に適応するためイリオモテヤマネコには多様な食性がある。ヤマネコの保護のためには西表島そのものが大事だ」と島の豊かな自然を守る必要性を訴えている。
だがヤマネコを巡る環境は必ずしも安全とは言えない。一つの要因は人間の生活だ。ヤマネコが交通事故に巻き込まれ死ぬ「ロードキル」が後を絶たない。今年に入り、すでに3匹のヤマネコが事故で死んだ。
県道では県がロードキル対策を施し対策に乗り出しているが、西表島内からは「さらなる行政の取り組みが必要だ」との声も漏れる。
(西銘研志郎)