[日曜の風・吉永みち子氏]欠ける政治家の英知 コロナ危機


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吉永みち子 作家

 このところ私の頭には、101匹わんちゃんに出てくるクルエラが居座っている。犬を捕まえて美しい毛皮にする悪女の髪は半分が輝く金髪で半分が真っ黒。新聞もテレビも半分が金メダルの感動で輝き、半分は感染大爆発で苦しむ現状で真っ二つに分断されてるせいだ。

 世界がコロナと格闘する中、日本という国はなぜか他国と逆の道を行く。他国が検査体制を拡充する中、検査を絞り込む。変異株が猛威を振るう中、たくさんの人を海外から集める。先進諸国は最初の波で甚大な被害を受けたが、再拡大しても第一波を超えることはない。が、日本だけ、第5波の今が最悪。それでもワクチンが行き渡るまでの辛抱だとか言い出すが、そのワクチンがどの程度進んでいるのか、誰が在庫管理や流通管理をしているのか皆目分からない。

 最近、東京都の職員のこんな声がテレビで伝えられて仰天した。「もはや万策尽きて打つ手なし。五輪の影響はあると思う」。

 ステイホームとか自粛とか辛抱せい!以外に万策っていうほどの有効な策を打たれた記憶はないのだが。最近、国も、高齢者がワクチンで重症化しなくなったから感染者数を報じて不安をあおるななどとメディアをけん制するようなことを言い出した。現時点で30%程度のワクチン供給なのに、ワクチンのおかげを強調している。そのうち、感染者数が発表されなくなったら、ほぼ戦前と一致だ。

 高齢者の重症化は防げても、感染者数が増えれば当然重症化する人も増える。しかも東京都は重症の定義がエクモや人工呼吸器を装着した場合のみで国と違う。普通の感覚では、ICUで酸素吸入が必要な状況は十分重症だが、都は断固認めない。そこを重症とすると困るのだろう。都に国の基準に合わせるように求めてきたけど、そのうち国の方が都に合わせるかも。

 感染症の専門家が「これまで経験したことがない危機で、英知を集めて対応しなければ大変だ」と訴えていた。とはいえ、何よりこの国に欠落しているのは政治家の英知だと誰もが分かっている。国のリーダーの強いメッセージを求めても、自助でよろしくで終わりそうだし。でも、リーダーの器は国民で決まると言われれば返す言葉が見つからない。

(作家)