中南部にも豊かな自然 「秘境」外も保全・発信を<世界自然遺産 宝の森の今>5


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豊かな自然が広がる末吉公園の動植物を説明する宮崎悠さん=7月、那覇市の末吉公園

 登録地以外

 県内は世界自然遺産登録エリアの外にも豊かな多様性があり、そこにしかいない固有種がたくさんいる。遺産登録で「やんばると西表だけを守ればいいという印象を持たれると困る」と口にする関係者は多い。

 「中南部でその豊かさが分かるところを案内してほしい」。大学院の専門課程を修了したガイドが所属し、生物の生態や生態系の妙を深く知るエコツアー会社キュリオス沖縄(那覇市)の宮崎悠さん(35)に相談すると「駐車場がありモノレール駅も近い、末吉公園にしましょう」と提案してくれた。

 末吉公園は那覇市内にありながら、足を踏み入れると大木が深い影をつくり、葉の上、枝の間には多様な虫たちが見つかる。

 歩き始めて早々、チブサトゲグモの巣があった。住宅地や道路沿いにもいるが「南西諸島まで来ないと見られない」と宮崎さん。巣がないところには全然いないのに、あるところには複数いることに気付く。「餌になる虫の通り道があり、そこに集まるのでしょうね」

 遊歩道を進むと脇の葉からオキナワモリバッタがジャンプした。草原ではなく森の中で生きることを選び、飛ぶための羽を捨てた沖縄島の固有種で、その生きざまは飛ばない鳥のヤンバルクイナとも重なる。

 「『秘境』に行かなくても野外に出て、生き物が生きる姿を肌で感じれば面白さが分かる。地質が違うため中南部ならではの森もあるし、やんばるにしかいないと思っていた希少種が家の近くにいることもある」

 琉球列島全体の自然に目を向ければ、より広い自然の多様性を知り、守りながら、登録地のオーバーユースを避けることにもつながる。自然遺産エリアの「ど真ん中」にある国頭村安田区の、やんばるエコツーリズム研究所の中根忍代表(64)も「森に入らなくても集落付近で十分面白い案内ができる」と話した。

 ただツアー業者により考え方は多様で、一つにまとまるのはとても難しいと宮崎さんは言う。「行政が方向性を出して音頭を取ってくれたら」。始まったばかりの世界遺産の課題を挙げた。
 (黒田華)