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夏休みの学習  必要性高い数学の復習を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 大学生や高校生から、夏休みの勉強について相談を多数受けている。筆者は「この機会に数学を復習することを勧める」と答えている。日本の高校課程では、中学と比して、数学が急に難しくなる。さらに英語も難しくなるので、学習時間が不足する。そのため高校生のほとんどが数学か英語、もしくは両方に苦手意識を持つようになる。

 私立文科系の場合、数学を迂回(うかい)して受験することができる。そうなると学校の定期試験は暗記で乗り切って、真面目に数学に取り組まずに大学に進学する人も少なからずいる。大学でも数学や物理、統計など高校数学の知識が必要になる科目を避けてでも、卒業単位を取得することができる。しかし、就職活動で壁に突き当たる。

 民間の大手企業の場合、採用試験にSPIや玉手箱などのウェブテストの受験が条件になることが多い。その4割程度が数学の問題だ。レベルは中学3年生までの数学の知識があれば解ける内容だ。逆に言うと、中学数学の知識に欠損があると不利になる。大卒レベルの国家公務員試験、地方公務員試験には教養試験がある。この教養試験の4割程度も数学を含む理科系科目だ。数学に関しては、高校1年生の秋くらいまでの知識が必要だ。

 公務員試験の場合、教養で「足切り」(基準点まで達しない場合、不合格とする)がなされることもある。法律、経済などの専門科目を一生懸命勉強していても、数学が極端に不得意だと、不合格になってしまう。ちなみに筆者が客員教授を務めている公立名桜大学では、入学時に数学と英語の学力チェックを行い、足りない部分がある場合には、チューターがついて補強するシステムが整っている。こういうきめ細かさが名桜大学の強さだ。

 暗記数学で定期試験をしのいできた人たちは、大抵の場合、中学レベルでの数学の知識に欠損がある。高校数学の三角関数がまったく分からない生徒は、ほぼ例外なく中学数学の図形でつまずいている。数学は積み重ね学習が要求される科目なので、中学数学に欠損があると、高校数学の教科書を読んでも理解できない。

 さらに高校で文科系を選択すると数ⅡBまでしか数学を学ばない。しかし、社会に出てから実務で必要とされる統計や確率、微積分に関しては数Ⅲで基礎を学ぶことになる。数Ⅲを履修せずに大学で経済学や社会学を専攻すると苦労する。これから社会における数学の必要性は一層高まるので、個人的には高校の文科系でも数Ⅲを必修科目にするべきだと思う。

 いずれにせよ中学数学に欠損があると思う高校生、大学生、社会人に夏休みを用いて、その穴を埋めることを筆者は強く勧める。中学の数学教科書と教科書ガイドを購入し、勉強するのが王道だ。その際に、教科書の練習問題だけを説くというようなやり方はよくない。本文をきちんと読んで、証明は書き出して理解することが重要だ。

 教科書だと退屈だという人には、数学をやり直すことを念頭に置いて作られた芳沢光雄「生き抜くための中学数学 中学数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本」(日本図書センター)を勧める。また、コロナ禍でリモート学習用のさまざまな教材が学校や予備校で準備されているので、それを用いてもいい。

(作家・元外務省主任分析官)