禍根残す国の行為 サンゴ移植再開 国際的価値も損なう


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辺野古新基地建設現場近くのサンゴ(資料写真)

 台風の発生が相次ぐ中、沖縄防衛局が名護市辺野古の新基地建設に伴うサンゴ類移植の作業を再開したことは、工事を優先し、サンゴ保全の観点を度外視した暴挙だ。地方自治を侵害しているだけでなく、生物多様性や環境保護という国際的な価値に反する。この行為を適法だと容認した農水相の判断も罪深い。水産行政の信頼を失墜させ、将来に禍根を残す。

 そもそもサンゴを生息地点から採取することはサンゴに悪影響を及ぼすため、原則禁止だ。水産資源の保護や培養につながる場合に限って例外的に認められる。それほどサンゴにとって悪影響の大きい作業で、移植という行為自体、最小限に抑えなければならない。防衛局は県から設計変更の承認を得ない限り、新基地建設を完成できず、そのめどが立っていない。新基地建設が頓挫した場合、無意味にサンゴを死滅の危険にさらしたことになる。

 サンゴの生残率を高めるため、高水温期と台風の時期を避ける必要があるが、防衛局はそれさえ独自の解釈で無視した。過去に防衛局が移植したサンゴが台風の影響で消失したとみられる事例もあったが、反省を生かしていない。

 水産庁はこれまでサンゴの保全・再生に向けて取り組んできた。同庁が2019年にまとめた手引きでは、サンゴが育つ環境として高水温による白化の恐れや台風に伴う強い波浪によるストレスが明記されている。今回、防衛局の移植を認めたことは、これら過去の取り組みをも否定する。

 防衛局が指導に従わない中、県は裁判所に訴えることも検討しているが、入り口論で切り捨てられる恐れもある。今回の移植強行は、単に国内法の趣旨にとどまらず、普遍的な価値も損なう行為だ。その視点から国際社会に広く訴えていく手法も必要だ。 

(明真南斗)