涙そうそう、男はつらいよ、小さな恋のうた…沖縄の映画ロケ地は今<J1グランプリ>


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 緊急事態宣言真っただ中で、さまざまな「ステイホーム時間」を過ごされているかと思います。映画・ドラマ鑑賞を楽しむ人も多いのではないでしょうか。今回の地域のイチオシを紹介する「J(地元)☆1グランプリ」は、県内を舞台に撮影された映画のロケ地を紹介します。豊かな自然、独自の歴史と文化を持つ沖縄をテーマとした作品は、多くの人を魅了してきました。懐かしい作品を見て、当時の思い出に花を咲かせてみてはいかがでしょうか。

カフーを待ちわびて 今帰仁村今泊集落

プレビュー 昔ながらの風景残る

 今もなお昔ながらの風景が残る今帰仁村では、沖縄を舞台とする多くの映画の撮影地となってきた。「日本ラブストーリー大賞」に選ばれた「カフーを待ちわびて」(2009年、中井庸友監督)はほとんどが、フクギに囲まれ古民家が並ぶ今泊集落で撮影された。集落は撮影当時と変わらない風景で、映画の雰囲気を味わえる。

「カフーを待ちわびて」に登場するアカギ=3日、今帰仁村の与那嶺構造改善センター前

 物語はさえない青年・明青が絵馬に書いた「嫁に来ないか。幸せにします」の願いごとから始まった。絵馬を見た謎の女性・幸は明青が暮らす沖縄の離島を訪れ、2人で暮らし始める。島での暮らしを通してゆっくりと時間をかけ、ひかれあっていく2人が描かれている。

 明青が経営する「友寄商店」は今泊集落の建物が使われ、2人の散歩道なども集落内で撮られた。明青が愛犬・カフーと散歩中に、幸と出会ったビーチは集落北側にある。天然のビーチで、エメラルドグリーンの海を一望できる場所だ。

 物語で重要な役割を果たす大きな木は、与那嶺構造改善センター前にあるアカギだ。「おきなわの名木百選」の一つで、高さ15メートル、幹周り6メートルの巨木。地域住民にとって「憩いの場」だ。

 地域の人々の生活に寄り添い、愛される場所を撮影地に使ったからこそ、見る側を魅了する作品となったのだろう。

(喜屋武研伍)

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 那覇市・まちぐゎー

プレビュー 街の変貌楽しむ

 那覇市や本部町などで撮影された「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」(1980年)は、寅さんシリーズの中でも屈指の名作とされる。映画興行史やロケ地に詳しいNPO法人シネマラボ突貫小僧の當間早志さん(54)に、那覇のまちぐゎー(商店街)のロケ地を案内してもらった。

寅さんの啖呵売のロケ地を紹介する當間早志さん=6日、那覇市の市場中央通り

 「ハイビスカスの花」は、渥美清さん演じる寅さんが巡業先の沖縄で倒れたリリー(浅丘ルリ子さん)を見舞い、一緒に暮らし始めるという粗筋。寅さんが啖呵売(たんかばい)をする場面は那覇市の市場中央通りで撮影された。背景に映り込んでいる、新天地市場本通りの「カネボウ」と書かれた建物は今も残っている。今はなき那覇タワーも映っている。

 まちぐゎーは他にもさまざまな作品のロケ地になっている。當間さんは「撮影当時からの変貌と、逆に変わらない部分が面白い」と語る。高倉健さん主演の「網走番外地 南国の対決」で登場する水上店舗は当時アーケードがなく、牧志公設市場衣料部・雑貨部は瓦屋根だ。国際通りにあるカルテックスの給油所は現在、ドン・キホーテになっている。

 當間さんは映り込んでいる建物や看板などをヒントに、グーグルマップや住宅地図などを駆使してロケ地を特定している。「ロケ地を探すうちに戦後史に詳しくなるのも楽しい」。あなたも大好きな作品のロケ地を探してみてはいかがだろうか。

(伊佐尚記)

小さな恋のうた 北中城村・北中城高校

プレビュー 青春彩る空と海

 学園祭での演奏がかなわなかった高校生が、学校屋上でライブを強行する。音楽に友情に恋愛が加わり、若者の言葉を借りるなら「アオハル(青春)かよ」と突っ込みたくなる映画「小さな恋のうた」(2019年)。屋上ライブは北中城高校の屋上で撮影された。眼下には青い海が広がり、抜群のロケーションが高校生たちの奮闘をさわやかに引き立たせる。

学園祭のステージに立てなくなった主人公らが演奏場所にした屋上=5日、北中城高校

 県出身バンド・MONGOL800(モンパチ)の代表曲を題材としている。ただの青春、音楽映画と思いきや、沖縄の生活から切り離せない基地問題も密接に絡んでくる、まさに“沖縄チャンプルー”映画だ。

 撮影場所は北中城高校のほか、米軍嘉手納基地周辺、北谷町の宮城海岸など本島中部が中心だが、メインキャストで高校生役の佐野勇斗さんは撮影後、印象に残ったロケ地に屋上シーンを上げている。「屋上ライブは、少し怖かったけど楽しかった。青い海と空を眺めながら熱唱したのは気持ち良かった」と振り返っている。鈴木仁さんも「あのシーンはとても良かった。演奏をした3人がずるいと感じた。後で映像を見て、いいなと思った」と語っている。

 晴れた日にモンパチを聴きながら、北中城高校の屋上を見上げれば、映画の雰囲気が味わえるかも。

(新垣若菜)

DVD発売・配信中の映画「小さな恋のうた」のワンシーン((c)2019「小さな恋のうた」制作委員会)

涙そうそう 豊見城市・兄ィニィの丘

プレビュー 夕日映える憩いの場

 鳥のさえずりやさざ波の音が心地よく鼓膜を振るわす。白い砂浜の向こうに広がる水平線には夕日が沈む。オリオンECO美らSUNビーチがある豊見城市豊崎の豊崎海浜公園。その南側に小高い丘がある。2006年に公開された映画「涙そうそう」(土井裕泰監督)のロケ地となり名付けられた「兄ィニィの丘」だ。市民憩いの場で、夕方になるとジョギング、サイクリング、散歩をする人々が行き交う。夕日を眺めるスポットにもなっている。

映画「涙そうそう」のロケ地となり名付けられた「兄ィニィの丘」=7月29日、豊見城市豊崎

 映画はBEGIN作曲の「涙そうそう」をモチーフにし、オール沖縄ロケで撮影された。血のつながりのない兄妹の切ない愛が描かれている。飲食店を出す夢を持ちながら、那覇の市場などで懸命に働く新垣洋太郎(妻夫木聡さん)と、妹のカオル(長澤まさみさん)を中心に物語が展開していく。カオルは洋太郎のことを「兄ィニィ」と呼んだ。

 主人公の洋太郎がカオルから届いた手紙を読むシーンの撮影に使われた場所が、後に「兄ィニィの丘」となる。市は「大切な人を思い続ける兄ィニィの思いを受け継ぎ、この公園が市民に大切に守られていくこと」との願いを込めて名付けた。2007年、オープンした。

 週に3回ほど犬の散歩で訪れるという30代女性は「海と夕日がセットになった場所なので、気持ちがリフレッシュできる」と水平線を眺めた。市の担当者は「兄ィニィの丘で夕日を見て、疲れた心を癒やしてみてはいかがでしょうか」と呼び掛けた。

(照屋大哲)


 愛とマナーのバランス大切

 映画に限らず、テレビドラマ、ミュージックビデオ(MV)などに登場する場所は、その作品や出演者、アーティストを愛する熱狂的なファンから「聖地」と呼ばれます。「聖地巡礼」と称し、訪れるファンは多数で、当方も経験あり。

 地域にとって知名度が向上し、来訪者の増加を期待できる半面、混雑やマナー違反に困惑する事例もあるようです。大切なことは何事もバランスでしょうか。一方的な愛は周囲を巻き込み、時には恐怖に変わることも。多くの映画が描く教訓です。

 ちなみに沖縄を題材にした作品を見ながら、出演者のせりふのイントネーションが気になる派です。

(貞)