鍋ぶたに「MAY」「HELEN」 沖縄の激戦地「ハクソー・リッジ」から米兵の遺留品か


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ふたの表面に「MAY」、「HELEN」と傷がつけられている

 戦没者の遺骨収集を約40年続ける具志堅隆松さん(67)=沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表=は約8年前、浦添市前田の壕で沖縄戦当時の米兵の持ち物とみられるフライパンのふた(アルミ製)を見つけた。米兵の遺留品が見つかるのは「極めてまれ」という。ふたの表面には「MAY(メイ)」と「HELEN(ヘレン)」とアルファベットの文字が刻まれていた。具志堅さんは「メイが本人の名前で、ヘレンは妻か母の名前を刻んだのではないか」と話し、米国の持ち主の関係者を探している。

米兵の持ち物とみられる、名前の刻まれたふたが見つかった場所に立つ具志堅隆松さん=5日、浦添市前田

 具志堅さんによると、沖縄で見つかる米兵の遺留品は、日本兵の遺留品に比べ極端に少ない。米兵の死者数が圧倒的に少なかったためとみられる。

 ふたを見つけたのは、米軍が「ハクソー・リッジ」と呼んだ激戦地から南に約300メートルの場所。日本兵とみられる遺骨や遺留品と一緒にあった。ふたの大きさは縦約18センチ、横約20センチで4カ所に弾痕がある。当時はリュックサックに付けていたとみられ、具志堅さんは「砲弾がこれだけ貫通している。持ち主の米兵は亡くなり、日本兵が戦利品として持っていたのでは」とみる。

 見つけた当初は文字が刻まれていることに気がつかなかったというが、洗うと傷が規則的でアルファベットだと分かった。さらに時間をかけ、判読に成功した。沖縄戦の犠牲者が刻銘された糸満市摩文仁の「平和の礎」で検索したところ、「MAY」が付く名前は15人確認できた。手掛かりは一緒に刻まれた「HELEN」。具志堅さんは「関係者が見つかれば、ふたを渡したい」と望んでいる。

 ふたは、沖縄戦の多様な側面や戦争がもたらす惨禍を表現するものだと感じているという具志堅さん。学校の平和学習に招かれると、ふたを見せ「沖縄戦では米国や朝鮮の人たちも犠牲になった」と伝える。

 具志堅さんは5日、ふたを見つけた場所を訪ねた。宅地造成で壕はなくなっていた。ふたを手に「誰かを大切に思う人間の心は同じ。一生懸命、大切な人の名前を刻んだのだろう。人間らしいよね」とつぶやき、そっと表面をなでた。

  (中村万里子)