prime

タリバンとイスラム革命 ISの国外テロを支援へ<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 15日、イスラム教スンナ派系武装組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧した。ガニ大統領は国外に逃亡し、アフガニスタンの現政権は崩壊した。タリバンがアフガニスタンのほとんど全土を実効支配している。タリバンは近く「アフガニスタン・イスラム首長国」の成立を宣言するであろう。

 1996年から2001年までのタリバン政権と比べると女性の就労や教育を一部認める政策を取るだろう。しかし、タリバンは本質において欧米基準の人権、既存の国際法秩序を認めていない。「アフガニスタン・イスラム首長国」では女性の権利は著しく制限され、表現の自由、学問の自由なども制限される。民主的秘密投票による議会選挙は行われない。さらに米軍に協力したアフガン人は死刑を含む厳しい処罰を受けるであろう。取り調べにおいても拷問が行われ、公正な裁判は期待できない。

 米国、英国などが「アフガニスタン・イスラム首長国」を承認することは考えられない。ロシア、中国、タジキスタン、ウズベキスタンなどは、「アフガニスタン・イスラム首長国」を公式には承認しないが、存在は認め、対話(取り引き)を行うであろう。ロシアが懸念しているのは、アフガニスタンに拠点を持つイスラム教スンナ派に属する過激派「イスラム国」(IS)戦闘員の動静だ。

 ロシアが得ている情報では、ISは「アフガニスタン・イスラム首長国」の政権運営には参画しないで、国外へのイスラム革命(テロ活動)の輸出に全力を傾注する。タリバンはアフガニスタン国内にISの拠点を確保し、資金や武器を提供する。すなわちタリバンは「アフガニスタン・イスラム首長国」の統治者としては他国の主権を尊重し、平和的共存を約束する。

 他方、イスラム革命勢力としてのタリバンは、ISの外国におけるテロ活動を支援するという二重基準だ。

 歴史にはこれによく似た例がある。ソ連とコミンテルン(共産主義インターナショナル=国際共産党)の関係だ。ソ連は資本主義国と国際法に基づいて外交関係を樹立する。ソ連国家としては外国に共産主義革命の輸出はしない。しかし、モスクワに本部を置き、主要資本主義国に支部を置く(例えば、国際共産党ドイツ支部がドイツ共産党、国際共産党日本支部が日本共産党)コミンテルンは世界革命を目指した活動を続ける。ソ連はコミンテルンを財政、人員育成、武器供与などで支援するという枠組みだ。

 ロシアと中国は、中央アジア、ロシア(特に北コーカサス地方)、中国(特に新疆ウイグル自治区)でISが活動することをタリバンが阻止するという条件で、「アフガニスタン・イスラム首長国」を事実上承認するという現実主義路線を取ろうとしている。

 タリバンもISも米国の強さを十分に認識している。従って、2001年9月11日の米国同時多発テロのような米国の軍事介入を招来しかねない冒険はしないと思う。

 他方、パキスタン、フェルガナ盆地(ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの国境が複雑に入り組んだ地域)、フィリピン南部のミンダナオ島などにISの拠点を作る策動を強めると思う。いずれにせよ、タリバンに対する20年戦争で米国が敗北したという事実は今後の国際関係に無視できない影響を与える。 

(作家、元外務省主任分析官)