妊婦がコロナに感染したらどうなる?感染者急増の沖縄 周産期医療の現場から


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帝王切開に向けて、妊婦に麻酔を打つ医師ら=琉球大学病院(提供)

 新型コロナウイルスの感染急拡大により、県内の妊婦の感染者が8月に入って急増している。16日現在で89人に上り、7月(34件)の2倍以上だ。妊婦や新生児のハイリスク患者に対応できる病院は県内で少ない。また、リスクが高いため通常は行わない新生児の病院間搬送で病床を確保する事態になっており、周産期医療は綱渡りに近い状態になっている。 (嘉陽拓也)

 琉球大学病院周産母子センターの銘苅桂子教授によると、同病院では妊娠37週以降の場合、院内感染を防ぎながら安全な分娩(ぶんべん)ができない可能性が高いことから、本人の了解を得て緊急の帝王切開を行う。呼吸器不全など病状が悪い場合は「帝王切開で赤ちゃんを出してあげた方が、妊婦さんの肺が膨らみ呼吸しやすくなる可能性がある」という。他県では、重症化したため気管挿管しながらの手術をした事例もあるという。

 一方、妊娠37週未満では帝王切開するケースは少ないが、急に陣痛が始まるケースがあるという。銘苅教授によると、妊婦が感染すると早産のリスクが増加する詳しい原因はまだ明らかではないが、疫学的調査の結果でその傾向が確かめられている。

 母親のケア必要

 こうした緊急対応とは別に、出産前の妊婦が赤ちゃんに感染させないか不安になり、産後は濃厚接触者として扱われる新生児に会えないつらさで、精神的に落ち込んだ時のケアも重要になるという。そのため、タブレット端末などを使い、赤ちゃんの状態を母親に報告し、不安を和らげる。

 出産後は新生児の医療的ケアも続けなければならない。県内では感染した妊婦から生まれた新生児に対応できる新生児集中治療室(NICU)は最大9床で、うち人工呼吸器などを備えたベッドは4床のみ。濃厚接触者の新生児に対応するため、医師や助産師、看護師は感染防護服に身を包み、交代勤務でも1人3時間以上つきっきりになるため、人手の確保にも苦慮している。

 病床も余裕がなく、NICUの病床を確保するため、感染性がない新生児を重点医療機関以外の病院に搬送している。新生児は搬送時のリスクがあることや、母子分離を避けるため通常は行わないが、感染急拡大によりやむを得ない事態になっているという。

 県内では琉大病院や県立中部病院、県立南部医療センター・子ども医療センターなどを中心に、多くの周産期施設や産科クリニックが常に連携して対応しているが、妊婦の感染者が減らないため、入院や分娩ができない妊婦がでてくるのではないかと危機感を強めている。

 勤務先の配慮も重要

 厚労省は新型コロナに関する母性健康管理措置を定めており、妊娠中の女性労働者が感染の不安や胎児の健康保持に影響があるとして、主治医の指導を基に申し出た場合、事業者は必要な措置を講じないといけない。銘苅教授は「妊婦の働く職場は、リモートや配置換えなど、多数の人と会う機会を減らすことが必要だ。家庭内の同居者も感染対策を徹底してほしい」と語る。

 重要な対策となるワクチン接種について、日本産科婦人科学会などは14日、妊婦のワクチン接種を推奨する見解を発表している。しかし、県内では産婦人科に接種を相談する妊婦のうち、半数は打たない傾向があるため、銘苅教授は「なんとなくや、不安だから打たない妊婦さんが多い。メリットとデメリットを考え、検討してほしい」と話した。